災害事例研究

No.72


【林業】急斜面上方側に伐倒した木が滑って近くの伐根に当たって回転し、伐倒木の元口と近くの立木との間に挟まれる

 被災者が急斜面上方側に伐倒を行った際に、伐倒した木の倒れる方向が微妙に変わり、上方にある枝条止めの中断切り切り株の頭頂部に当たり落ちた。落ちた木はすでに伐倒してあった木の上を滑り、近くの伐根に当たりこれを支点として回転した。
 退避中の被災者は、回転した伐倒木の元口と近くの立木の間に挟まれた。

◆災害の発生状況◆

 被災者は、スギの伐倒作業に従事していたが、車両通行の関係で下方の林道側には伐倒できず、急斜面(約37度)上方45度側に伐倒を行った。(伐倒は、枝条止めの中断切り切り株(高さ約1.5m、間隔約3m)の間を狙って行われていた)
 その際に、伐倒した木(直径35㎝、高さ18m)の倒れる方向が微妙に変わり、上方にある枝条止めの中断切り切り株(高さ約1.5m)の頭頂部に当たり右側に落ちた際に、すでに伐倒されていた木の上を滑った。滑った伐倒木は、近くの伐根(高さ約80㎝)に当たりこれを支点として回転したため、退避中の被災者が、回転した元口と近くの立木に腹部を挟まれて死亡した。

<発生経過>

  1. 被災者は朝から伐倒作業に、同僚2名と従事していた。
  2. 伐倒する木の伐倒方向を規制するためと落下を防止するため、上部作業道にある油圧ショベルのアームからワイヤーを掛けた。
  3. 伐倒は、伐倒した木の滑りや落下等の防止を含めて、上部にある枝条止めのために残した中断切り切り株(高さ約1.5m、間隔約3m)の間を狙う形で行われていた。
  4. 8時半頃、被災者は伐倒作業を行ったが、狙った方向とは微妙にズレたため、倒れた木が枝条止めの中断切り切り株の頭頂部に当たり右側に落ちた。
  5. 落ちた木は、すでに伐倒していた木の上を滑り、その際に近くにあった伐根(高さ約80㎝)に、伐倒木の下側より3分の1くらいの部分が当たった。
  6. このため、伐倒木がこの伐根を支点として回転を起こした。
  7. 被災者は、急斜面を上方へ退避中であったが、木の元口が被災者の方に向かって回転したため、近くの立木と伐倒木の元口に腹部を挟まれた。
  8. すぐに救急車とドクターヘリで病院へ搬送したが、病院で死亡が確認された。

イラスト

画像1

画像2

◆災害発生の原因◆

  1. 谷側の林道が通行止めにできず、やむを得ず危険性の高い、急斜面上方側へ伐倒したこと。
  2. 伐倒方向が、枝条止めの切り株の間を狙う状態であったため、方向が変わったことで、枝条止めの中断切り切り株の頭頂部に当たった。
  3. 伐倒方向をコントロールし、落下を防止するためのワイヤーが、油圧ショベルのアームに取り付けられていた。(ウインチ機能なし)
  4. 近くの伐根に、跳ねた伐倒木が当たることが予想できなかった。
  5. 急傾斜地のため、退避が完全にできていなく、立木の陰に入ることが出来なかった。
  6. 急傾斜地で作業場所が狭く、伐根や伐倒木などの障害物が多い中で作業を行わざるを得なかった。

◆災害の問題点◆

<人>

  1. 作業方法や周囲の障害物に対する、危険性への認識が不足していた。
  2. 退避の際に立木の陰に入らなかった。(急傾斜地のため退避がうまくいかなかった)

<物(作業方法)>

  1. 足元を含め、周囲の障害物の整理ができていなかった。
  2. 油圧ショベルのアームにワイヤーを掛けて、伐倒木のコントロールを行っていた。

<管理>

  1. 下方林道通行車両への対策等に対する作業計画が十分でなかった。
  2. 事前の計画及び計画時の危険性の把握と対策の立案が不足していた。
  3. 事前対策に基づく、現地における危険予知に対する指導が行われていない。

◆災害の防止対策◆

  1. 急傾斜地での伐倒は基本的に行わないことが望まれる。
  2. 作業全体を総合的に見た上で、危険要因の排除のための事前の対策(道路等施設等への対策や伐倒方法などの作業計画、及び作業手順などの作成)を行う。
  3. 伐倒木の方向コントロールは、ガイドブロックやウインチなどを使用して確実に行う。
  4. 急傾斜地における、障害物の除去や作業場所の確保(足元の整備)を確実に行う。
  5. 危険度の高い場所では、より安全な退避場所(立木の陰等)と退避ルートの確保を確実に行う。

◆まとめ◆

 今回の災害は、急傾斜地で障害物の多い中での作業で、危険要因が多く存在する中で発生した。このような状況下での伐倒作業は、災害防止に当たっての不確定要素を多く含むため、以下に示す事前の準備が不可欠となる。

  1. 事前調査の実施。
  2. 事前調査に基づく作業計画の作成。
  3. 作業計画時の危険性の調査及び対策の立案(作業手順の作成)。
  4. 作業手順に基づく現地での危険予知の実施。

 この中の「3と4」の項目の実施に当たっては、リスクアセスメントが有効に働くため、リスクアセスメントを活用すること。現在、林災防では「実践的なリスクアセスメント(簡易リスクアセスメント記録書(林業))」の導入を目指しており、これを実施することで、現地の状況に応じた、リスクの排除や低減をスムーズに図ることが可能になる。
 このように、危険要因が多く存在する林業の現場においては、「実践的なリスクアセスメント」の実施が急務と思われ、まずは現場への導入が急がれる所以である。

災害事例研究 バックナンバー

▲ページのトップへ