災害事例研究 No.52 【木材製造業】
チッパーの刃物取替作業中に被災
チップ製造工場のチッパーに取り付けられている刃物の取替作業を行っている時に、他の作業者がチッパーと同じ操作盤に取り付けられているベルトコンベヤーの起動スイッチを押そうとして、誤ってチッパーのスイッチを押してしまい、刃物取替作業を行っていた被災者がチッパー内に巻き込まれ、失血死したもの。
災害発生の状況
災害発生時、当日のチップ製造作業を終了し、被災者はチッパーの刃物取替作業に取りかかった。チッパーは、80mm、240mm、320mmの長さの刃物が合計で24個取り付けられており、被災者はこれを1日おきに取り替えていた。
被災者は、まず工場内の機械設備関係の運転を停止させてから、チッパーのディスクカバー裏側にある刃物取替作業用専用カバーを開けて、ディスクに取り付けられている24個の刃物のうち20個の刃物取替えを終え、次に残り4個の刃物取替作業を行っていたところ、他の作業者が木材等の廃棄物を屋外に排出するため、ベルトコンベヤーのスイッチを押そうとして誤ってチッパーのスイッチを押してしまい、チッパーのディスクが突然回転、チッパー内に巻き込まれたものである。
なお、両スイッチは、同じ操作盤に上下に設けられていた。
スイッチを押した作業者は、被災者の悲鳴を聞くとともに、チッパーのスイッチが赤く点灯したことに気づき直ちにスイッチを切った。作業者は、直ちに事務所に行き、状況を連絡、工場長等が駆けつけたところ、被災者はチッパー内のディスクの羽根とディスクカバーの間から臀部のみが見える状態であった。
チップ製造作業は、当日午後4時頃終了して、工場内の機械設備を停止後、被災者はチッパーの刃の取替作業、作業者はベルトコンベヤーから落ちた木クズ等を集め、ベルトコンベヤーに乗せて屋外に排出する作業が並行して行われていたものである。
操作盤は、縦41 cm、横40 cm でこの中にチッパー及びベルトコンベヤーのスイッチを含めて、24個の押ボタンスイッチが取り付けられており、被災の原因となったベルトコンベヤーのスイッチとチッパーのスイッチは上下に16 . 5 cmほど離れているが、同じ形状で3個並びの上に位置していた。
また、操作盤の上には、「清掃・点検中、操作厳禁」の札があり、必要な場合には操作盤表面に取り付けられるようになっていたが、普段から使用されていなかった。
災害発生の原因
- 運転を停止して行う刃部取替え等の作業に際して、他の作業者がスイッチを入れることを防止する措置がなされていなかったこと。
- 作業標準を定め、安全教育がなされていなかったこと。
- スイッチの表示が小さく見づらかったこと。
- 他の作業者がチッパーのスイッチとベルトコンベヤーのスイッチを押し間違えたこと。
災害防止対策
チッパーの刃物取替作業も含め、機械を停止して行う検査・修理等作業は、他の作業者がスイッチを誤って投入することがないよう確実な施錠を行うとともに、表示による場合は表示する必要性を含めて教育を徹底することが必要と思われる。
また、同一の操作盤に多数のスイッチを設ける場合は、誤操作を防ぐためにも表示の大きさ、色彩等を工夫すること。
おわりに
労働安全衛生規則では、こうした誤操作による災害防止のため、下記のような規則を定めている。特に、本件のような動作されると極めて危険な状況を生む場合は、単に作業者の注意に任せるのではなく、施錠するとともに、その鍵は刃物取替作業等を行う作業者が直接確保して、誤操作が物理的に行えないような措置を考える必要もある。
また、チッパーのように直ちに停止しづらい機械の点検、修理等の作業に対して、開口部のボルトをわざと多数設けて、停止する時間が経過しなければ開けられない構造に工場独自の工夫によって安全を確保している事業場もある。工場内に設置してあるさまざまな機械の危険性を個々に点検して、リスクの度合いによって事業者の判断により、安全な作業方法、設備の改善がなされていかなければならない。
労働安全衛生規則(抄)
(刃部のそうじ等の場合の運転停止等)
第百八条 事業者は、機械の刃部のそうじ、検査、修理、取替え又は調整の作業を行なうときは、機械の運転を停止しなければならない。ただし、機械の構造上労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。
2 事業者は、前項の規定により機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に錠をかけ、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等同項の作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない。