災害事例研究 No.17 【林業】
急傾斜地において、刈払機による除伐作業中、バランスを崩して転んだことから、回転中の刈刃で右大腿部から下腹部にかけて切創、斜面を14 m滑落して出血多量により死亡した。
傾斜角約50度という急傾斜地で肩掛式刈払機(ツーグリップ)を使用して作業中、身体のバランスを崩して転倒する際、刈払機を落とし、回転中の刈刃に覆い被さる姿勢で転倒したため刈刃で大腿部から下腹部にかけて大きく切創後、斜面を14m滑落して出血多量により死亡したものである。
なお、当該除伐事業は森林組合が県関連の公社から請け負ったものであり、その事業の一部を森林組合の会員である個人事業者Aに請け負わせている。Aは被災者を含む作業員4人を雇用し、主として森林組合から仕事を請負い事業を営んでいる。
災害発生の状況
- 当日は被災者と同僚Bが傾斜約50 度という急傾斜地において除伐作業に従事した。被災者は当該作業箇所が急傾斜地であったことから、通常使用している肩掛式刈払機(Uハンドル)を使用しないで、事業者Aから借りた肩掛式刈払機(ツーグリップ・通称一本棹)を使用していた。加えて腰バンドの付いた肩掛バンドの金具から刈払機を外して、時には竹ぼうきを持つ姿勢で作業を進めていた。
- 被災者と30m程離れて刈払機による除伐作業に従事していた同僚Bは、被災者の刈払機のエンジン音が一定であることを不審に思い被災者が作業していた場所に行ったところ、刈払機は高速回転したまま地面に落ちており、その周囲には血痕が認められた。同僚Bは周囲を探したが被災者の姿は見えなかった。
- 同僚Bは近隣で作業していた他の作業者の応援を求め周囲を探したところ、作業していた位置から約14 m 下の灌木の茂みに倒れている被災者を発見。直ちに病院に搬送したが、病院で出血多量による死亡が確認された。
災害発生の原因
- 刈払機による作業が極めて困難な傾斜角約50 度という急傾斜で刈払機を用いて作業を行ったこと。
- 肩掛式刈払機(ツーグリップ)の腰バンドの付いた肩掛バンドの金具から刈払機を外し、加えて刈払機を竹ぼうきを扱う姿勢で作業したこと。
- 固定式スロットルレバーであったため、ハンドルから手を離しても高速回転が続いていたこと。
- なお、元請けである森林組合が事業者Aに対して、急傾斜地における安全な作業方法に関して具体的な指示をしていなかった。
災害防止対策
- 急傾斜地で、刈払機作業の危険が予想される箇所では、手工具(かま等)で刈り払うこと。
- 刈払機作業中は腰バンドの付いた肩掛けバンドの金具に確実に吊すこと。 (注)なお、「緊急離脱装置」を装着することにより、作業中に転んだ場合等緊急時のときは、「緊急離脱装置」によりワンタッチの操作で装着した刈払機を外すことができる。
- 刈払機を金具から外して、竹ぼうきを持つようにして作業をしないこと。
- スロットルレバーは固定式でなく、トリガー式スロットル装置を装着した刈払機を用いること。
- 事業者は、事業開始前に作業箇所の傾斜の状況等を綿密に調査し、急傾斜地においては、ロープ等で区画して人力による刈払作業とする等、具体的な作業指示を行うこと。
[注]平成22年4月30日付けで、(社)日本農業機械工業会・刈払機部会より「刈払機のスロットルレバー装置に係わる合意内容」がリリースされたので参考にして下さい。
刈払機のスロットルレバー装置に係わる合意内容
社団法人日本農業機械工業会刈払機部会
- レバーの機構は、安全鑑定基準に適合するものとする。
なお、この安全鑑定基準は、現行の「安全鑑定基準『3.安全装置』(3)に定める基準(「[解説]3)刈刃の停止装置」を含む)」であり、同基準が改正される場合は、それに準じるものとする。 - 実施時期は、平成23年(2011年)9月末日をもって、生産中止とする。
なお、実施時期前に適合する製品(新商品を含む)への切り替えが可能な場合は、早期に実施する。
[参考]【安全鑑定基準(抜粋)】
3.安全装置
(3)刈刃を有する機械にあっては、刈刃を容易かつ急速に停止できる構造であること。
ただし、通常は作業者が接触するおそれがないと認められる場合は、この限りではない。
[解説]3)刈刃の停止装置
①当該基準(3)でいう「急速」とは、刈刃を最高回転させた状態で、クラッチ又はブレーキレバー等の操作開始から5秒以下である。
②動力刈取機(刈払型)にあっては、ハンドルから片手を離すことでクラッチを切る方法又はこれと同等の機能を有するものは可とする。
〈補足1〉
平成22年4月現在、刈払機において、安全鑑定を受験する際のレバーに係わる基準は、安全鑑定基準「『3.安全装置』(3)に定める[解説]3」②」が適用されている。
〈補足2〉
平成23年9月末日までに生産した「刈払機のスロットルレバー装置に係わる合意内容1.」に適合しない刈払機については、同年10月以降も販売することが出来る。ただし、「同合意内容2.」に基づき、可能な限り速やかに切り替えが出来るよう努力すること。