災害事例研究 No.89 【林業】
測量作業中に約21メートル崖下の川に墜落して死亡
間伐を請負った山林で被災者が同僚2人と一緒に測量作業中、間縄(けんなわ)とポールを両手に持って、次の測量点まで移動する途中、約21メートルの崖下の川に墜落して全身打撲により死亡した。
災害発生の状況
被災者は、同僚2人と一緒に測量作業中、間縄(けんなわ)とポールを両手に持って、約80度の崖付近を次の測量点まで移動する途中に、約21メートル下の川に墜落して全身打撲により死亡した。墜落したと考えられる場所の地面にはツタやツル等が這っており、それらにつまずいた可能性も考えられた。
なお、被災者は32歳で、入社2日目であった。
災害の発生原因
- 崖等の危険な箇所を作業計画書に記載しなかったこと。
- 作業前に危険な箇所に関わる安全対策について、打ち合わせをしていなかったこと。
- 崖に墜落する危険があったにもかかわらず、墜落防止措置を講じなかったこと。
- 新規雇い入れ者に対して、安全衛生教育を実施していなかったこと。
等の原因が考えられる。
山林における作業は、急傾斜地、窪地、崖などでの作業を伴うことが多く、労働安全衛生規則に関する行政通達(昭51・10・7基収第1233号)において「こう配が40度以上の斜面上を転落することは、労働安全衛生規則第518条及び第519条の『墜落』に含まれる。」とされているところであり、林業現場にはいたるところに墜落の危険な場所が存在している。
災害の防止対策
- 作業前の事前踏査の段階で、崖等の危険な箇所は作業計画書に記載すること。
- 危険な箇所については、安全に作業をするための作業方法等について、事前に打ち合わせをすること。
- 傾斜40度以上の急傾斜地で墜落のおそれのある作業を行う場合は、手すりの設置又は安全帯等の使用などの措置を講じ、墜落を防止すること。
- 新規雇い入れ者に対しては、安全衛生教育を実施すること。
本件の如く80度近い崖は論外だが、労働安全衛生規則においては、林業も建設業と同様に傾斜が40度以上の墜落の危険個所については、「手すりの設置」や「安全帯の使用」等の対策を講ずる必要がある。
草木に覆われて一見崖には見えないところに崖があったりすることから、測量前にもよく現場の地形を調査した上で、安全な作業方法についてリスクアセスメントを行い、作業計画書を作成する必要がある。
なお、安全帯を使用させるに当たっては、近くに安全帯を設置する(回す)ものがない場合には事前に親綱を張るなどの措置を行っておく必要もある。
全産業を通じて休業4日以上の労働災害の中で最も多い事故の型は、「転倒災害」であり、林材業の場合は、転倒により刃物に接触する、沢に転落する、岩石に衝突する等のより大きな災害に結びつく場合も多く、特に留意する必要がある。林災防では、一昨年から「林材業STOP!転倒災害プロジェクト実施要綱」(下記参照)により転倒災害防止対策を展開している。是非、皆様のところでも実施していただきたい。
<参考>
林材業STOP!転倒災害プロジェクト実施要綱(抄)
- 趣旨 (略)
- 実施期間 (略)
- 主唱者 (略)
- 実施者 (略)
- 林業・木材製造業労働災害防止協会本部の実施事項 (略)
- 林材業関係団体の実施事項 (略)
- 林業・木材製造業労働災害防止協会支部(分会)の実施事項 (略)
- 会員事業場の実施事項
(1) 重点取組期間に実施する事項① 2月の実施事項(2) 共通事項
ア 安全の担当者(安全推進者)が参画する場(安全委員会等)における転倒災害防止に係る現状と対策の調査審議② 6月の実施事項
イ チェックリストを活用した安全委員会等による職場巡視を通じた、職場環境の改善や作業者の意識啓発職場巡視等により、転倒災害防止対策の実施(定着)状況の確認① 4S(整理、整頓、清掃、清潔)の徹底(3) 冬期における転倒災害防止対策として気象情報の活用によるリスクの低減の実施
② 転倒災害防止のための安全な歩き方、作業方法の推進
③ 作業内容に適した防滑靴の着用を推進
④ 定期的な職場点検、巡視の実施
⑤ 転倒予防体操の励行① 気象情報活用によるリスク低減の実施(4) 林業における取組事項ア 大雪、低温に関する気象情報を迅速に把握② 通路、作業床の凍結等による危険防止の徹底
イ 気象状況に応じた作業の見直し
ウ 警報・注意報発令時等の対応マニュアルの作成、関係者への周知ア 屋外通路や駐車場における除雪、融雪剤の散布による安全通路の確保
イ 屋外通路や駐車場における転倒災害のリスクに応じた「危険マップ」の作成及び関係者への周知① 裾締まりのよい長ズボン、スパイク付地下足袋又はスパイク付安全靴を着用
② 作業地までの通い道は、必要に応じて階段、丸木橋を設置するとともに、転落のおそれのある箇所はロープ、柵などを設置
③ 急傾斜で転倒及び滑落のおそれがある作業地では、転落防止柵又は安全帯を使用
④ チェーンソーによる伐木作業の場合、退避場所及び退避路の支障となるかん木等を事前に取り除く
⑤ チェーンソーによる枝払い作業の場合、足場を確保してから作業に着手することとし、材の上での枝払い作業は行わない
⑥ チェーンソーによる玉切り作業の場合、足下が不安定な場所では行わない