災害事例研究 No.93 【林業】
林齢80年のモミの立木を伐採していたところ、伐倒方向が90度変わり、伐倒規制をかけていたワイヤロープに跳ね飛ばされ、他の立木に激突し死亡した
林齢80年のモミの立木を伐採していたところ、伐倒方向が90度変わり、伐倒規制をかけていたワイヤロープに跳ね飛ばされ、他の立木に激突し死亡した
災害の概要
作業は、仏閣の裏山のモミの立木(樹高約20 メートル:伐根直径約80cm)の伐採である。
作業は、伐倒方向を谷側(南方向)とすると、仏閣の屋根等を損傷する可能性があったことから、山側(北方向)に倒すこととし、まず、地上から約10m付近の上部を吊り切りで伐採した。
次に残った下部の伐倒方向を規制するため、ワイヤロープで2方向からチルホールで引っ張りながら伐倒していたところ、予定した方向から90度西側に倒れた。
この際、被災者が操作していたチルホールのワイヤロープが緩んでいたが、倒れる際、ワイヤロープが別の立木の枝に引っかかり突然緊張した。
ワイヤロープの近くにいた被災者が緊張したワイヤロープに跳ね飛ばされ、他の立木に激突し死亡したものである。
作業者の位置関係等は、災害見取図参照
災害の考えられる原因
直接原因としては、
- くさびを使用して山側に重心を移動させるなど、伐倒方向がより確実となる作業方法を選択しなかったこと。
- 伐倒方向を規制するのに、ガイドブロックを使用しなかったこと。
- 伐倒規制のワイヤロープ位置が、地上から約2mと低かったため、伐倒方向を規制するだけの張力が得られなかったこと。
- 伐倒者とチルホール取扱い作業者との事前打ち合わせ(合図や退避場所等)が不十分であったこと。
災害防止対策
- 受け口は通常より大きくとり、追い口の高さは低めにし、くさびを用いて伐倒方向側に重心を移動させてから予定方向へ伐倒すること。
- 大径木の伐採は、ガイドブロックを用いて牽引の方向を変えるなど、チルホール取扱い作業者が安全な位置で作業できるようにすること。
- ワイヤロープが別の立木に引っ掛かるような状況が事前に分かっていたのであれば、事前に支障となる立木や枝を除去するなど、基本を遵守した適切な作業方法を採用すること。
- 牽引して伐倒方向を規制するために立木に巻くワイヤロープの位置は、できるだけ高い位置に巻くこと。
今回のように、大径木の伐採は、小・中径木に比べ危険が増すことから、「追いづる切り」、「三段切り」等の伐採方法を採用することにより、伐倒作業者がより安全に作業することが可能となる。また、伐倒方向に影響を及ぼすおそれのある根張りは「根張り切り」する必要があるので、枝ぶり、つる、樹の重心などとともに確認すること。
本件災害は、伐倒規制のワイヤロープに跳ね飛ばされるという災害である。
常に、リスクアセスメント、KYT等を実践し、作業者の安全意識を高め、繰り返し教育していく必要がある。