災害事例研究 No.160 【林業】
傾斜地の広葉樹の伐倒作業で、立木が裂け上がり伐倒作業者に激突
被災者は傾斜40度程度の斜面で傾斜に沿うように伸びている広葉樹(ヘラノキ)(胸高直径24cm、伐根直径30cm、樹高19m)の伐倒をしていた。
受け口を入れ、追い口を切り込む際に、受け口側から4m程の高さまで裂け上がり、裂け上がった幹が落下し元口部分が被災者に落下し激突した。
災害の発生状況
災害発生現場は4.7ha程のヒノキ林の皆伐現場で、災害発生当日は皆伐作業が概ね終わり、尾根筋に残っていた広葉樹の伐採作業を行っていた。
作業者4名で午前8時から作業を始め、4名はそれぞれ分かれ、チェーンソーを使って伐倒作業をしていた。
午前10時から休憩を20分程取ってから、伐倒作業を再開した。再開した直後、被災者は斜度40度の急傾斜面に対して垂直方向に幹が伸びて、さらに途中から真上に伸びている広葉樹(ヘラノキ(シナノキ科)。胸高直径24cm、伐根直径30cm、樹高19m)の伐倒作業をしていた。
被災者は、斜面の斜め下方向に伐倒しようと、受け口の下切りを樹幹と直角に8cm切り、斜め切りを下切りと約20度の角度で切り込み、追い口を樹幹と直角に14cm程切り込んだところで、広葉樹は追い口側から4mの高さまで裂け上がって跳ねて受け口側の幹と分離し、裂け上がった幹の元口部分が被災者に落下し激突した。
被災者は下敷きになり、1時間後にレスキューヘリで救出されたが、搬送された病院で死亡が確認された。
災害の発生原因
- 形状が複雑な偏心木で裂け上がりやすい樹木であるにもかかわらず、伐倒する際に裂け防止の対策が講じられていなかったこと。
- 当該ヘラノキの形状が独特なものであり、傾斜に沿った幹が途中から直上に伸びているため、切り込みを入れた際の応力の働きが予想できなかったこと。
- 受け口の斜め切りの角度が20 度程度となっていたなど、基本的な伐倒方法ではなかったこと。
- 被災者は伐倒経験が3年程で、伐倒技術が十分に備わっていないと思われ、熟練者からのアドバイスを受けられない状況で伐倒をしていたこと。
- チェーンソーを用いた伐木等作業計画を作成していなかったこと。
- 偏心木等の伐倒技術を要する作業に対して作業責任者からの指導が徹底していなかったこと。
災害の防止対策
- 裂け上がりやすい樹木については、裂け止めを防止する対策を講じること。
- 基本的な伐倒方法である受け口の斜め切りの角度や水平切りを順守すること。
- 形状が複雑な偏心木の伐倒は、伐木経験が十分にある作業責任者の指示に基づき、安全確認した上で行うこと。
- 経験の浅い者が伐倒する際には技能のある者から作業指示が受けられるような作業配置とすること。単独作業とならないようにすること。
- チェーンソーを用いた伐木等作業現場では、事前調査と、それに基づくリスクアセスメントを行った上で綿密な作業計画を作成すること。また、作業指揮者を選任し、作業計画に基づく作業を指揮させること。
- 伐木等作業の現場の事前調査において、特に高い伐倒技能が必要な樹木を把握したときは、具体的な伐倒方法を定め徹底すること。