災害事例研究 No.141 【林業】
立木の伐倒方向が変わり、木材グラップル機のアームに当たり、その反動で元口が伐倒者の頭部に激突
作業道付近のスギを伐倒したところ伐倒方向が約90度変わり、伐倒を補助しようとして近づいて来た木材グラップル機の肘(ブームとアームのつなぎ部分)付近に当たり、その反動で伐倒木の元口が退避していた被災者の右側頭部に激突した。
災害の発生状況
災害当日は班長他4名により作業を始めた。班長は木材グラップル機(以下「グラップル」という。)運転を、被災者はスギ林の作業道付近の伐倒作業を行い、他の作業者は離れた所で造材等の作業に従事していた。
被災者は作業道付近のスギ(胸高直径35cm、樹高18m)に受け口、追い口を入れ、くさび1本を打ち込んで伐倒しようとしたが、立木がしばらくの間倒れなかった。
近くでこの様子を見ていた班長はグラップルを使って、伐倒補助をするために、グラップルを被災者の方向へ移動していた。
この時、立木が突然倒れだし、伐倒方向が予定した方向から約90度変わり、グラップルが近づいてくる方向へ倒れ始めたので、被災者は、倒れ始めた立木の位置から2m程後方へ退避していた。
伐倒木はグラップルの肘付近に当たり、その反動で被災者が退避している方向に、元口が跳ね返って、被災者の右側頭部に激突し、さらに倒れた被災者の上に落ちて、被災者は下敷きになった。
被災者はドクターヘリで搬送されたが、翌日に死亡が確認された。
災害発生の原因
- 被災者は伐倒経験が浅く、当該事業場での勤務は6か月程であった。チェーンソー作業従事者の特別教育は受講していたが、伐根からはつるが見られず、くさびは1本のみの使用等から基本どおりの伐倒作業が行われていなかったこと。
- 災害時に伐倒方向が変わった原因は、立木の重心や腐朽状態の影響も考えられるが、伐根では「つる」がなく、追い口切りが不十分で、樹皮の一部が残り、この樹皮側に裂け上がりが見られたことから、これが伐倒方向に影響したこと。
- 伐倒作業において、グラップルにより押し倒す用途外使用となる方法が行われ、危険な作業を規制する安全管理が機能していなかったこと。
- 被災者の技能を配慮して、現場管理者等から作業内容に応じた安全確保(退避等)の指導ができていなかったこと。
- 作業計画を作成せずに、車両系木材伐出機械が使用されており、さらに安全確認が十分に行われずに作業をしていたこと。
災害の防止対策
- 災防規程を遵守して、受け口の下切りと斜め切りの終わりの部分を一致させること。
追い口切りの切り込みの深さは、つるの幅が伐根直径の10分の1程度残るようにし、切り込み過ぎないこと。
基本ルールを逸脱する作業者が見られるときには、管理者による遵守指導や教育を実施すること。 - 作業経験の少ない作業者には、技能や経験を考慮して、安全確認を徹底させ、また作業者の行動の把握に努めること。
- 車両系木材伐出機械の主たる用途外使用は行わないこと。
日常的に行っている者に対しては、会社の禁則事項として決め、作業者にこれを認知させ、禁止措置を徹底すること。 - 退避場所は、伐倒方向の反対側で、伐倒木から十分な距離があり、かつ、立木の陰等の安全なところでなければならないこと。
ただし、上方向に伐倒する場合、その他やむを得ない場合は、退避場所を伐倒方向の横方向とすることができること。 - 車両系木材伐出機械を使用する作業では車両系木材伐出機械による作業の方法等、綿密な作業計画を作成し、作業者に周知すること。
自己流の不安全な伐倒
不安全な自己流の伐倒作業が林業現場で散見されます。
危険な作業方法を事業者側が容認しているような印象を受けることがあります。
チェーンソー操作者は技能職であり、自身で技能や知識を経験から修得していくものですが、一方で作業効率を上げることも要求されるものと思われます。
しかし、安全確保の手間を省き、十分に退避をせずに、つるを残さずに、さらに機械で押し倒す方法は厳に禁止すべきです。
作業経験の少ない作業者や伐倒技術に不安のある作業者に対しては、作業者任せにせずに、事業者が主体となって安全指導等に取組むことが必要です。
〈労働安全衛生規則)
(作業計画)第151条の89
(主たる用途以外の使用の制限)第151条の103
〈林業・木材製造業労働災害防止規程)
(退避場所の選定)第59条
(受け口及び追い口)第61条
(くさびの使用)第62条