災害事例研究 No.166 【林業】
浴びせ倒しにより、かかられていた立木の根が浮いた状態となり、その立木とつる絡みとなっていた下方の立木を、被災者が伐倒したところ、つるに引っ張られた木に激突された
同僚の作業者がかかり木を外すために浴びせ倒しを行ったことによりかかられていた立木の根が浮いた状況となったが、そのことを知らないまま、被災者がその立木とつる絡みになっていた下方の立木を伐倒したところ、つるに引っ張られて上方の立木も倒れて被災者が激突された。
災害の発生状況
皆伐予定現場(民有林)において、被災者は同僚の作業者と2名で機械集材装置を設置するため主索直下にある立木の伐倒を行っていた。
同僚の作業者が、ヒノキA(胸高直径約30cm)を伐倒したところ、隣のヒノキB(胸高直径20cm)にかかったため、浴びせ倒しでかかり木を処理しようとして、かかったヒノキAの近くにあったヒノキC(胸高直径約30cm)を伐倒したが、ヒノキCもヒノキA同様にヒノキBにかかってしまったため、さらにヒノキCの近くにあったスギD(胸高直径約30cm)も浴びせ倒しを行った。
その結果、かかり木ははずれ、伐倒木3本(かかり木となったヒノキA、浴びせ倒しのために伐倒したヒノキCとスギD)は斜面を落下した。
その際、浴びせ倒しによる衝撃によってかかられていたヒノキBは根が浮いて少し傾いた状態となったが、伐倒することなくそのままにされていた。
その後、しばらくして、被災者がヒノキ標識の掲示等の立ち入ることBの根の状態を知らないまま、その下方のヒノキE(胸高直径約30cm)を斜面の横方向に伐倒したところ、ヒノキEとつる絡みとなっていたヒノキBが根株ごと被災者側に倒れ、被災者が激突され、ヒノキEの切り株との間に挟まれた。
また、作業していた場所は、傾斜35度の急峻な現場であった。
災害の発生原因
- 伐倒前に、上方、周囲について、つる絡みの有無、つる絡みとなっている木の状態等の確認が不足したこと。
- かかり木の処理を浴びせ倒しで行ったため、かかられた立木の根が浮いてしまったのに、先に処理しないまま下方にある立木を伐倒したこと。
- 浴びせ倒しによりかかられた木の根が浮いてしまったことなどの情報を作業者間で情報共有しなかったこと。
災害の防止対策
- 立木の伐倒を行う場合は、周囲の状況を十分確認し、根が浮いてつる絡みとなっている立木は先に伐倒するなど、周囲の立木の伐倒時の危険を排除すること。
- かかり木の処理を浴びせ倒し等で行わず、けん引具等を使用して行うこと。
- 速やかに処理ができない場合は、根が浮いてしまっていることなど立木の情報を他の作業者にも周知し情報を共有するとともに、処理が終わるまでの間、周囲に作業者が近づかないよう、標識の掲示等の立ち入り禁止の措置を講ずること。
参考
作業者全員で危険性を共有し、危険な状態の立木が発生した場合には、速やかに対処することが必要である。
〈労働安全衛生規則〉
(かかり木の処理の作業における危険の防止)
第478条 事業者は、伐木の作業を行う場合において、既にかかり木が生じている場合又はかかり木が生じた場合は、速やかに当該かかり木を処理しなければならない。ただし、速やかに処理することが困難なときは、速やかに当該かかり木が激突することにより労働者に危険が生ずる箇所において、当該処理の作業に従事する労働者以外の労働者が立ち入ることを禁止し、かつ、その旨を縄張、標識の設置等の措置によつて明示した後、遅滞なく、処理することをもつて足りる。
2 事業者は、前項の規定に基づき労働者にかかり木の処理を行わせる場合は、かかり木が激突するられている立木を伐倒させ、又はかかり木に激突させるためにかかり木以外の立木を伐倒させてはならない。
3 第1項の処理の作業に従事する労働者は、かかり木が激突することによる危険を防止するため、かかり木にかかられている立木を伐倒し、又はかかり木に激突させるためにかかり木以外の立木を伐倒してはならない。
〈チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドラインの別添2〉(令和2年1月31日付け基発0131第1号)〉
2−(2) 安全な作業の徹底
エ かかり木の処理の作業における禁止事項の遵守(抜粋)
(イ) かかり木に激突させるためにかかり木以外の立木の伐倒(浴びせ倒し)
〈林業・木材製造業労働災害防止規程〉
(枝がらみの木、つるがらみの木の伐倒)
第56条 会員は、枝がらみの木を伐倒する場合には、作業者に、できる限り伐倒前にからんでいる枝を取り除かせなければならない。取り除くことができない場合には、次の各号に掲げる事項を行わせなければならない。
(1) 略
(2) 略
2 会員は、つるがらみの木を伐倒する場合には、作業者に、できる限り伐倒前につる類を取り除かせなければならない。 以下略