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災害事例研究 No.167 【林業】

伐倒方向が変わって、隣接木に当たり、その反動で伐倒木の元口が跳ね上がり激突

伐倒者と伐倒補助者の2人による伐倒作業中の災害
伐倒者はスギ立木をチェーンソーで受け口、追い口を切り、その後に補助者がくさびを打ち込んだところ、立木の伐倒方向が変わり、隣接した二股の木に激突し、その反動でスギの元口側が跳ね上がった後、元口側が伐倒方向の反対方向に動き、伐倒補助者に激突した。

災害の発生状況

 作業は、4人で2ha程のスギ林の皆伐作業を行っていた。
 当日は、伐倒作業を2人で行い、他の作業者はトラック運搬と道路に散乱した木材の片付けを行っていた。
 10時の休憩後に、伐倒担当の2人は引き続き伐倒作業に従事した。
 伐倒者Aはスギ(胸高直径50cm、樹高15m)に受け口、追い口をチェーンソーで切った。
 補助者Bは追い口にくさびを打ち込んでスギを伐倒したところ、伐倒木の根元が裂け上がり、スギは予定した方向とは違う、隣接する広葉樹側へ倒れた。
 広葉樹は樹高約10mのところで二股になっており、その部分にスギ梢端部側が激突した。
 伐倒木は激突した反動で二股を支点に元口側が跳ね上がり、その後、元口側が伐倒方向とは反対方向に動きだし補助者Bに激突した。
 補助者は退避場所に退避していなかったため、動いた元口部分が被災者の頭部に激突した。

災害の発生原因

  1. 伐倒者Aは特別教育の未受講者であったことと、伐倒木の伐根は、つるが残っておらず、受け口と追い口の高さが同じで、倒れる寸前に根元から裂け上がって予定した方向に倒れなかったこと。
  2. 被災した補助者Bは林業経験が少ないため、現場の補助作業に従事させていたもので、安全な退避場所に退避していなかったこと。
  3. 伐倒者Aが補助者Bの作業指導等をするものと考えられるが、被災者に対して的確な退避指示が行われず、作業の指導体制が機能していなかったこと。
  4. 伐倒者Aと補助者Bは、法令等の知識が十分でなく、関係法令等の順守ができていなかったこと。
  5. 事業者は林業経験が10年以上ある伐倒者Aを信頼し、自己流の伐倒方法を黙認していたこと。

災害の防止対策

  1. チェーンソーによる伐木作業を行う場合は、必ずチェーンソーの特別教育を受講した者に作業を行わせること。
  2. 事業者は、自己流の危険な伐倒方法を黙認せず、労働安全衛生規則及び「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」を遵守した作業を行わせるとともに、裂け上がりを防止する措置を講じた作業(追いづる切り)を行わせること。
  3. 林業経験の浅い者が作業に従事する場合には、安全衛生教育を行い、安全に関する知識や危険に対する認識を付与してから作業に従事させること。
  4. 伐木作業を行う場合には、事前調査に基づく作業計画を作成し、作業手順や作業方法について作業者に周知するとともに、適切な作業指揮者を選任して作業計画を遵守させること。

基本ルールの徹底

本件災害では、40年以上の林業経験を有する事業体であるにもかかわらず、関係法令等を順守できていない不安全な作業が災害の原因と考えられた。
 林業災害を減少させるためには、林業に携わる者は、最初に労働安全衛生法等の関係法令を認知することが必要と考える。
 特に伐倒作業は自己流の伐倒方法で行うことが多く見受けられる。安全な伐倒方法の定着が必要と考える。

〈労働安全衛生規則〉
(特別教育を必要とする業務)
第36条 法第59条第3項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。
(8) チェーンソーを用いて行う立木の伐木、かかり木の処理又は造材の業務
(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
(1) 伐倒の際に退避する場所を、あらかじめ、選定すること。
(2) 略
(3) 伐倒しようとする立木の胸高直径が二十センチメートル以上であるときは、伐根直径の四分の一以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。
2 立木を伐倒しようとする労働者は、前項各号に掲げる事項を行わなければならない。

〈チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン〉
1~2 略
3 事業者及び労働者の責務
ア 伐木等作業を行う事業者は、労働安全衛生法令に基づく措置を的確に履行することはもとより、本ガイドラインに基づく措置を講ずることにより、伐木等作業の安全対策を徹底すること。
イ 略
4~5 略
6 作業計画等
(1)調査及び記録
事業者は、伐木等作業を行う場合、伐木等作業を行う範囲を対象に、チェーンソーを用いて伐木の作業を行う場合には表1、チェーンソーを用いて造材の作業を行う場合には表2に示す事項を含め調査し、その結果を記録すること。以下略
(4)作業指揮者
事業者は、伐木等作業を行う場合、作業計画に基づく作業の指揮を行わせるために、作業指揮者を選任すること。
7 チェーンソーを用いて行う伐木の作業
(2)作業に伴う立入禁止区域及び退避等
エ 安衛則477条第1項第1号に基づき、事業者は、それぞれの立木について、伐倒者に、伐倒前に伐倒方向の反対側の木の陰などの退避場所及び退避ルートを選定させること。以下略