災害事例研究 No.19 【林業】
研修生がグラップルを移送中、林道から転落した
被災者は集材土場で使用していたグラップルをリース会社に返却するため、グラップルを運転し、林道に沿って移送させていたところ、下り勾配でややカーブしている箇所で路肩をはみ出し法面下にグラップルごと転落、被災者は運転席から投げ出された。
災害発生の状況
- 被災当日、被災者は午前中チェーンソーによる伐倒作業の補助業務に従事。午後から集材土場で使用していたグラップル(機体重量13.5t、ベースマシン0.45tの油圧ショベル)をリース会社へ返却するよう指示を受け、グラップルの外回り等の掃除を1時間程かけて行った。
- その後、午後2時頃から当該グラップルを自ら運転して集材土場から林道を自走。返却指定先である林道上の「所定場所」(集材土場から7km離れた車回し)まで移送する業務に就いた。
- 所定場所にグラップルがいないことから、同僚が近傍を探していたところ、午後5時半頃、グラップルの移送先である「所定場所」から800m程通り過ぎた地点の林道より15m斜面下にグラップルが転落、近くに被災者が倒れているのを発見された。
災害発生の原因
- 本件災害については、被災者がなぜ移送先の「所定場所」を通り過ぎてグラップルを自走していたのか不明である。さらには、当該林道はグラップルの走行に必要な被災者は集材土場で使用していたグラップルをリース会社に返却するため、グラップルを運転し、林道に沿って移送させていたところ、下り勾配でややカーブしている箇所で路肩をはみ出し法面下にグラップルごと転落、被災者は運転席から投げ出された。幅員、勾配等が確保されており、グラップルがなぜ路肩を踏み外したのか、原因等は目撃者もなく断定されていない。
- 被災当日は真夏の炎天下の状況の下、走行距離7.8kmを走行時間にして約2時間30分連続して運転していた事実が確認されている。このような状況から推測ではあるが、被災者はグラップルを長時間運転走行することによって疲労し、注意力、集中力が減退、散漫になっていた可能性がある。
- 加えて、被災者は「車両系建設機械技能講習」「林内作業車を使用する集材作業従事者安全衛生教育」を受講しておらず、ベースマシンの基本操作、グラップル操作等に習熟していなかったことが災害発生の遠因となった可能性も否定できない。
災害防止対策
- グラップルの移送は重機運搬車に積載して移送するのが基本であるが、自走し移送する場合には、道路交通法等の法令を遵守し、「車両系建設機械技能講習」を修了し運転走行に習熟した者に行わせること。
- また、グラップルが走行中に転落等の恐れがある箇所には、誘導者を配置するなど転落防止措置を講じること。
- 長時間にわたって自走の必要がある場合、運転者の注意力、集中力が散漫にならないよう適宜、休憩をとらせ、運転者を交代させる等の措置を講じること。
- グラップルの運転操作については、労働安全衛生法上、免許、技能講習等の法的資格取得を義務付けてはいないが、ベースマシンは油圧ショベルと同様であることから、「車両系建設機械技能講習」を受講しておくことが望ましい。また、グラップルを使用しての集材作業を行う際は、「林内作業車を使用する集材作業従事者安全教育(行政通達)」を受講させたうえで、業務に就かせること。
[参考]
- 林業用グラップルとは、油圧ショベル等のアームの先端に木材をつかむグラップルを装着したもので、伐倒作業現場から公道脇の山土場までの作業現場で、集材作業を行う機械のことをいう。多用途に使える便利な機械のため、素材生産現場で広く使われている。なお、集材作業とは、伐倒木の木寄せ作業、作業路脇や山土場までの集積作業及び運材車等への積み込み・積み下ろし作業をいう。
- 林業用グラップルは通達により「林業の現場における集材も目的として製造された自走用機械」と定義される林内作業車の一つである。なお、林業の現場とは、林道上を含む森林内をいい、木材市場など公道から先の現場は含まれない。
- 林業用グラップルにはベースマシンとして油圧ショベルが多く使われているが、林業専用のベースマシンにも使われている。また、伸縮アームを取り付け、その先端にグラップルを装着した機種もある。
グラップルのベースマシンへの取り付け方法には固定式と吊り下げ式とがあり、何れもグラップルが全旋回するものが一般的である。
(出典)(社)林業機械化協会「林業用グラップルの安全な使い方」より引用
写真は、林災防出版「スイングヤーダ・タワーヤーダ等の安全な作業」より引用