災害事例研究 No.169 【林業】
受け口と追い口を切った後、木材グラップル機のアタッチメントで押したところ、突風が吹き伐倒方向が変わって被災者に激突
スギ立木の皆伐作業において、チェーンソーマンは受け口、追い口を切って木材グラップル機運転者に当該立木を押し倒すように合図した。
運転者は木材グラップル機のアタッチメント側面でスギ立木を押したが、突風が吹き伐倒方向が90度ずれて倒れ、近傍で目立てをしていた被災者に激突した。
災害の発生状況
当日被災者は、同僚A(木材グラップル機運転者)、B(被災者の伐倒作業の補助)と共に7時50分頃土場に集合し、ミーティング後8時頃から伐倒作業に従事した。被災者は伐倒作業と並行し、支障となるかん木類を伐除していたが、その後移動しチェーンソーの目立て作業を行っていた。
その後、伐倒補助をしていたBが、伐倒予定木(スギ胸高直径52cm、樹高34.5m)の周囲の深さ約1mの雪を木材グラップル機に除雪させた後、伐倒作業に取りかかった。Bは受け口を作り、追い口切りを終えると、木材グラップル機運転者のAに「押してもよい」と合図を送り待避した。
Aは木材グラップル機で伐倒方向に向かって伐倒木を押し始めたところ、材が傾き始めたので押すのをやめ、伐倒木の動きを注視していた。その時強い突風が伐倒方向の右手から左方向へと吹き、材は大きくあおられ、予定した伐倒方向より90度近く左側方向に倒れたため、伐倒木から25m程離れて目立て作業していた被災者に枝が激突した。伐倒木の動きを追っていたAは、材が着地する直前、被災者がそこにいることを始めて認識した。
なお、伐倒木にはつるが残されていなかった。
災害の発生原因
- 受け口と追い口の間に、適当な幅の切り残し(つる)を設けておらず、伐倒方向のコントロールが出来なかったこと。
- 木材グラップル機で伐倒木を押し倒すという本来の用途以外の作業に木材グラップル機を使用したこと。
- 風速10m以上の強風等悪天候の場合、又は悪天候に関する注意報等が発出されているにも関わらず、伐木等の作業に労働者を従事させたこと。
- 樹高の2倍以内に他の作業者がいたこと。
災害の防止対策
- 伐倒方向を適切にコントロールできるように、会合線を一致させた受け口の作成、追い口の終端との間に適当な幅の切り残し(つる)を設けること。
- 車両系木材伐出機械については、主たる用途以外の用途に使用しないこと。
- 悪天候(10m/s以上の強風、50mm以上の大雨、25cm以上の大雪等)の場合、又はその地域にそれらの注意報、警報が発せられている場合)について、造林等の作業(造林、伐木、かかり木の処理、造材、木寄せの作業)の実施について危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させないこと。
- 伐木の作業を行う場合には、樹高の2倍に相当する区域内に他の作業者を立ち入らせないこと。
〈労働安全衛生規則〉
(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
一~二 略
三 伐倒しようとする立木の胸高直径が二十センチメートル以上であるときは、伐根直径の四分の一以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。
2 略
(主たる用途以外の使用の制限)
第151条の103 事業者は、車両系木材伐出機械を、木材木材グラップル機によるワイヤロープを介した原木等のつり上げ等当該車両系木材伐出機械の主たる用途以外の用途に使用してはならない。
2 略
(悪天候時の作業禁止)
第483条 事業者は、強風、大雨、大雪等の悪天候のため、造林等の作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させてはならない。
〈林業・木材製造業労働災害防止規程〉
(かかり木の処理)
第54条
1 略
2 作業者はかかり木の処理について、次のアからオまでに掲げる事項を行ってはならない。
ア 略
イ 他の立木を伐倒し、かかり木に激突させることにより、かかり木を外すこと。
ウ~オ 略
(退避場所の選定)
第59条 会員は、伐木の作業を行う場合には、作業者に、あらかじめ、退避場所を選定させ、かつ、伐倒の際に迅速に退避させなければならない。
2 略
(受け口及び追い口)
第61条 会員は、チェーンソーによる伐木の作業を行う場合には、作業者に、それぞれの立木について、次の各号に掲げる事項を行わせなければならない。
(1)~(3) 略
(4) 追い口切りの切り込みの深さは、つるの幅が伐根直径の10分の1程度残るようにし、切り込み過ぎないこと。