災害事例研究 No.2 【林業】
伐倒木が欠頂木に当たって跳ね、伐根近くにいた別の作業者を直撃
災害の概要
被災者は、同僚が伐倒していたスギがクサビを打ってもなかなか倒れないので、同僚にもう少しツルを切るよう指示し伐倒作業の様子を見守っていたところ、伐倒したスギが想定していた方向よりずれて隣接した欠頂木に接触、いったん欠頂木に乗りかかって跳ねて滑落し、伐根の2メートル後方にいた被災者を直撃した。
災害発生の状況
- 被災者は当日、5人で、台風被害により大部分欠頂木や折損木になったスギの林地内において、まだ製材用材となる立木を選木した上で伐木作業を行っていた。
- スギ立木の伐木作業は各々が単独で行っていたが、被災者は自分の作業がひと段落したので、同僚が伐倒していた立木(径60cm、樹高24m)の伐倒作業を2m後方で見ていた。現場の地形は約10度の緩斜地で、伐倒方向は斜め下方(谷側)に倒していた。
- 同僚が伐倒していた立木は、受け口、追い口を切って、クサビを打って倒そうとしたが容易に倒れなかったので、作業の様子を見ていた被災者が、もう少しツルを切るよう同僚に指示した。
- 被災者の指示を受けて同僚がツルを切り込むと同時に倒れ、予定していた方向より右側(東側)にずれて、14m離れ隣接していた欠頂木(径50cm、樹高5m)の頂上部に接触、いったん天秤上に乗りかかり、反動で山側に向かって跳ね返って滑り落ち、チェーンソー操作していた同僚(伐倒者)をかすめて、伐倒木の伐根後方2mの地点にいた被災者を、根元部が直撃した。
災害発生の原因
- 本件災害は、伐倒木が想定したとおりの方向に倒れれば、欠頂木にかからず直接斜面に倒れて災害は発生しなかったものと思われるが、結果として、伐倒方向に確実に伐倒できなかったこと。
- クサビは1本しか使用しておらず、しかも厚さが薄くクサビの利きが不十分であったこと。
- 大径木であるにもかかわらず、受け口が浅く小さく、受け口の下切りの深さ、斜め切りの角度が十分でないなど、伐倒の方法に問題が認められたこと。
- チェーンソーによるツルの鋸断スピードが速すぎたと思われること。伐倒したスギ立木は、ツルを切ったとたんに倒れ、被災者もチェーンソー操作していた同僚も退避する余裕が全くなかったことから推して、ツルが短時間でなくなったため、伐倒方向、倒れる速度を調整する役割が機能しなくなり、当初予定していた方向よりずれてしまったと思われること。
- 伐倒の際、被災者は伐倒木の後方2m地点で同僚の伐倒作業を見ており、危険区域内から退避していなかったこと
災害防止対策
- 伐倒作業は、危険区域内に他の作業者を立ち入らせないこと。
- 伐倒作業の際は、あらかじめ安全な退避場所を選定し、立木が倒れ始めたらただちに退避すること。欠頂木や幹折れ木が林立している現場での退避については、伐倒木が欠頂木等に接触し予想しない方向に倒れることがあるという前提に立って安全な退避方向、場所を選定すること。
- 伐倒方向は、伐倒木の傾斜および重心位置、隣接木の状態、跳ね返りの可能性などを判断して、安全で確実に倒せる方向を選定すること。
- 伐倒作業の際は、受け口は直径の4分の1以上の深さまで、追い口は、受け口の高さの3分の2を目安に、ツルの機能を損なわないように切り込むこと等、伐倒作業についての正しい受け口、追い口切りの方法についての基準を守ること。
なお、被害木の発生している箇所での大径木の伐倒は、立木の傾き具合や周りの状況を判断して、安全確実に伐倒出来るように受け口を3分の1程度と深めにし、追い口は「追いづる切り」を選択して伐倒すること。 - 伐倒方向を確実にするため、クサビは厚めの物と薄めの物を2組以上用意して使い分けること。なお、チェーンソーで補正する場合は、徐々に行うこと。
風害木、雪害木等被害木の発生している林地での伐倒は、伐倒しようとする立木が傾斜していたり、割れが入っていたり、また、周りの被害木が影響を及ぼして伐倒作業に思わぬ動きをすることがあります。
作業に当たっては、これらの動きに十分対応できるよう事前の備えがなければ災害発生の危険があります。そのため、作業に入る前に現地の被害状況を把握し、作業手順を再確認して、これらについて十分打ち合わせの上、必要な作業用具をそろえて作業に着手することが必要です。