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災害事例研究 No.174 【林業】

急傾斜地の大径木を谷側に伐倒したところ、つるがらみとなっていた山側の隣接木が引っ張られ根株が激突した

被災者は急傾斜地(勾配40度以上)にあるスギA(伐根直径60cm、樹高20m)を重心方向である谷側に向けて伐倒を始めた。スギAの受け口、追い口を切ると、自然に傾き始め、スギAの樹冠部分と山側にあるスギB(胸高直径10cm、樹高12m)がつるがらみとなっていたため、スギAが倒れ始めるとスギBは強く引っ張られ、スギBは根株ごと引き抜かれ、被災者の頭部に根株が激突した。

災害の発生状況

 災害発生日、作業者4名が、現場責任者の指示の下で被災者は伐倒担当、他3名は集材、造材、運材を担当しそれぞれ重機やトラックを使用して作業を行っていた。
 伐倒方向は、後日に斜面下方の作業道上で造材・集材作業を行うため、スギの重心方向でもある下方としていた。
 被災者は当日8本目のスギA(伐根直径60cm、樹高20m)の伐倒を始めた。
 伐倒作業箇所は、急傾斜地で勾配が40度を超える足元が極めて悪い所で、スギAの山側1.5mのところにあるスギB(胸高直径10cm、樹高12m)がスギAとつるがらみとなっていたが、被災者はその状態を認識していなかったと思われる。
 被災者は受け口を切り、追い口を切り込むと重心方向である谷側へ倒れ始めた。
 後で根株の状況を見ると、追い口を切り込み過ぎていて切り残しは残されていなかった。また、くさびも使用されていなかった。
 急傾斜地での大径木の伐倒で、しかも切り残しが残されていないため、スギAは勢いよく倒れた。
 その結果、つるが絡んでいたスギBは根株ごと引っぱられてスギAの根株のところまで飛来した。被災者は退避がほとんどできていない状態で、スギBの根株が被災者の背後から頭部に激突したと推定される。
 木材グラップル機を運転していた同僚が被災者の姿が見えないことに気付いて、伐倒箇所へ駆けつけた。被災者はうつぶせでスギAの伐根そばに倒れていた。

災害の発生原因

  1. スギの複層林の皆伐作業であり、つるが多かったので作業開始前に処理をしていたこともあって、被災者はつるがらみを確認できていなかったこと。
  2. 集材方法との関係で下方向への伐倒を選択したが、倒れる速度が速くなる状況に応じた安全な退避場所・方法が決められていなかったこと。
  3. 伐根直径の1/10程度を目安として切り残しをつくり、くさびを使用して、倒れる速度を調整することができていなかったこと。
  4. 急傾斜地での退避という状況にあり、充分に安全な距離と場所が確保できていなかったこと。
  5. 被災者は、経験は豊富と思われるが、事前に詳細なリスクを検討するための作業計画を作成することなく作業をしていたこと。

災害の防止対策

  1. つるがらみの多い所での伐倒をする場合はつるが絡んでいても影響がないように相当の期間を設けてつるの事前処理をしておくこと。
    処理が難しい場合には一旦伐倒を中止して発注者も含めて対応を検討すること。
  2. 急傾斜地での伐倒ではできる限り伐倒方向をゆっくり倒れるような方向を選択すること。
  3. 切り残しを十分に確保して、くさびを使用して、倒れる速度を調整しながら、ゆっくり倒れる伐倒方法とすること。また、必要に応じ追いづる切りによる方法も選択すること。
  4. 急傾斜地では退避は滑落のおそれがあり、安全な退避場所に速やかに移動することができるような退避場所と退避通路を確保すること。
  5. 急傾斜地でのチェーンソーによる伐倒、つるがらみの伐倒対策をする場合に作業計画を作成して、リスク管理を徹底すること。

急傾斜地での伐倒、つるがらみの伐倒対策

 急傾斜地での作業は足元が悪く、滑落等の危険もあるため、安全確保は困難となっています。林業現場では止む負えないものとみなしてしまいそうですが、安全な林業を目指すためには傾斜地対策も重要な課題です。
 本災害原因は色々考えられますが、被災者は高い技能を持ちながらなぜこのような危険を冒したのかと考えると、危険な作業を手っ取り早く終わらせようとしていたとも考えられます。
 一つずつの安全対策の積み重ねがリスクを減らすことになるわけで、林業がこのような考え方が定着する必要があると思えます。
 また、つるがらみを見落とすことが多く、見分けることが難しい場合もあります。
 本件のつるの状態が見分けやすかったかどうかは不明ですが、事前に十分なつる対策をすることが重要となります。

〈労働安全衛生規則〉
(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
一 伐倒の際に退避する場所を、あらかじめ、選定すること。
二 かん木、枝条、つる、浮石等で、伐倒の際その他作業中に危険を生ずるおそれのあるものを取り除くこと。
三 伐倒しようとする立木の胸高直径が20cm以上であるときは、伐根直径の4分の1以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。

〈チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン 令和2年1月31日付け基発0131第1号〉労働安全衛生法施行令〉
6-(1) 調査及び記録
事業者は、伐木等作業を行う場合、伐木等作業を行う範囲を対象に、チェーンソーを用いて伐木の作業を行う場合には表1、チェーンソーを用いて造材の作業を行う場合には表2に示す事項を含め調査し、その結果を記録すること。 以下略
(2)リスクアセスメント及びその結果に基づく措置の実施等
(前略)リスクアセスメントを行い、その結果に基づいて、(中略)必要な措置を講ずるよう努めること。
(3)作業計画
ア 事業者は、伐木等作業を行う場合には、あらかじめ、上記(1)を踏まえ、チェーンソーを用いて伐木の作業を行う場合には表3、チェーンソーを用いて造材の作業を行う場合には表4に示す事項を含む作業計画を定めること。
7 チェーンソーを用いて行う伐木の作業
(1)作業前の準備
ア 林道、歩道等の通行路及び周囲の作業者の位置、地形、転石、風向、風速等を確認すること。
イ 立木の樹種、重心、つるがらみや枝がらみの状態、頭上に落下しそうな枯れ枝の有無等を確認すること。
ウ 安全な伐倒方向を確認すること。なお、伐倒方向は、斜面の下方向に対し、45度から105度までの方向を原則とし、このうち45度から75度までの間の斜め方向が望ましいこと。
エ 安衛則第477条第1項第2号に基づき、かん木、枝条、ササ、つる、浮石等で、伐倒の際その他作業中に危険を生ずるおそれのあるものを取り除くこと。
(2)基本的伐倒作業
ウ 追い口切り(図2参照)
(ア)略
(イ)追い口切りの切込みの深さは、つる幅が伐根直径の1/10程度となるようにし、切り込みすぎないこと。