災害事例研究 No.175 【林業】
急傾斜地でセンノキを斜面の真上方向に倒したところ、伐倒木の元口が跳ね上がった後、滑落して被災者に激突した
急傾斜地で、センノキを斜面の真上方向に伐倒したところ、伐倒木が仮置きの支障木に当たり、伐倒木の元口が跳ね上がった後、伐倒木が斜面下方に滑落して被災者に激突した。
災害の発生状況
被災者は、人工林の皆伐作業現場の傾斜約36度の沢で、センノキ(伐根直径約42cm、樹高約22m)をチェーンソーを用いて斜面の真上方向に伐倒したところ、伐倒木が上方の作業道に仮置きされていた支障木に乗り上げ、その反動で伐倒木の元口が跳ね上がり、伐倒木は斜面の下方に滑落して被災者の胸部に激突し、巻き込みながら斜面を約10m滑落した。
センノキの受け口は山側に切られおり、受け口の下切りと追い口はほぼ同じ高さに切られ、受け口と追い口の間の切り残しのつるは残されていなかった。
災害の発生原因
- 受け口の下切りと追い口が同じ高さで切られ、受け口と追い口の間につるが残っていなかったことから、追い口切りを行った後、直ちに倒れ始め、退避する時間を確保できなかったと推定されること。
- 斜面の真上方向に仮置きされた材の方向に伐倒したため、伐倒木がその上に乗り上げ元口が跳ね上がったことにより、その反動で伐倒木が斜面を滑り落ちたこと。
- チェーンソーを用いて急傾斜地の困難が伴う伐木作業について、事前にリスクアセスメント等を実施していなかったこと。
災害の防止対策
- 追い口の位置は、受け口の高さの3分の2程度の位置とし、追い口切りの切り込みの深さは、つるの幅が伐根直径の10分の1程度残るようにし、切り込み過ぎないようにすること。
- できる限り、根株から伐倒木の元口が外れないよう、つるの幅を多めに残すこと。
- 伐倒の支障となる仮置き材等は事前に移動させておくこと。
- 急斜面での山側の真上方向への伐倒は、伐倒木が斜面の下方に滑落し伐倒者に激突するおそれがあることから、皆伐作業で伐倒方向を自由に選択できる場合は、斜め下方向又は横方向を選択すること。
- チェーンソーを用いて急傾斜地の困難が伴う伐木作業については、事前にリスクアセスメント等を実施し、その伐木を踏まえた作業計画を作成し、それに基づき作業を行うこと。
〈労働安全衛生規則〉
(伐木作業における危険の防止)
第477条 事業者は、伐木の作業(伐木等機械による作業を除く。以下同じ。)を行うときは、立木を伐倒しようとする労働者に、それぞれの立木について、次の事項を行わせなければならない。
一 伐倒の際に退避する場所を、あらかじめ、選定すること。
二 略
三 伐倒しようとする立木の胸高直径が20センチメートル以上であるときは、伐根直径の4分の1以上の深さの受口を作り、かつ、適当な深さの追い口を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。
2 立木を伐倒しようとする労働者は、前項各号に掲げる事項を行わなければならない。
〈チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン 令和2年1月31日付け基発0131第1号〉労働安全衛生法施行令〉
6 作業計画等 略
7 チェーンソーを用いて行う伐木の作業
(3)基本的伐倒作業
ア~イ 略
ウ 追い口切り
(ア)追い口切りは、受け口の高さの下から2/3程度の位置とし、水平に切り込むこと。
(イ)追い口切りの切込みの深さは、つる幅が伐根直径の1/10程度となるようにし、切り込みすぎないこと。
〈林業・木材製造業労働災害防止規程〉
(調査及び記録)
第48条 会員は、チェーンソーを用いて伐木造材作業を行う場合には、あらかじめ次の各号に掲げる事項を調査し、その結果を記録しておかなければならない。
(1) 地形の状況、地質及び水はけの状況
(2) 略
(3) 偏心木、片枝木、二又木、転倒木、欠頂木、空洞木、腐朽木、枝がらみ木、つるがらみ木、枯損木及び広葉樹の状況
(4)~(5) 略
(調査及び記録を踏まえたリスクアセスメント等の実施)
第49条 会員は、前条の伐木造材作業に係る調査及び記録を踏まえたリスクアセスメント等を実施しなければならない。
(作業計画)
第50条 会員は、チェーンソーを用いて伐木造材作業を行う場合には、第48条の調査結果及び前条のリスクアセスメントの結果に適合し、かつ、次の各号に掲げる事項を含む作業計画を定め、当該作業計画に基づき作業を行わなければならない。
(1) 略
(2) 作業の方法(チェーンソー又は車両系木材伐出機械の使用の有無を含む。)、伐倒の方法、伐倒の順序、かかり木処理の作業方法及び困難木の伐倒方法
(3)~(6) 略
(7) 調査及び記録を踏まえたリスクアセスメント結果に基づくリスクの低減対策
2 略
(伐倒方向と伐倒方法の選択)
第60条 会員は、伐倒方向及びそれに応じた伐倒方法について、次の方法を選択するよう努めなければならない。
(1) 皆伐等の伐倒方向を自由に選択できる場合において、伐倒方向は、斜め下方向又は横方向を選択すること。
(2) 伐倒方向を下方向又は上方向とする場合は、選択した方向に伐倒した場合の特質を十分理解して伐倒すること。
ア 略
イ 上方向への伐倒においては、伐倒木が倒れるときに元口が跳ね上がることから、受け口と追い口の間の切り残し(以下「つる」という。)の強度を確保するため、つるを切り過ぎないようにすること。
(障害物の取り除き)
第61条 会員は、伐木の作業を行う場合には、作業者に、それぞれの立木について、かん木、枝条、つる、ささ、浮石等で伐倒等の際に危害を受けるおそれのあるものを、あらかじめ、取り除かせなければならない。
(受け口及び追い口)
第66条 略