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災害事例研究 No.32 【林業】

クサビを用いて偏心木を伐倒中、突然伐倒方向が変わりクサビを打っていた作業者に伐倒木の木口が激突した

 スギの伐倒作業において、伐倒木が伐倒しようとした方向(谷側)とは異なる方向(山側)に傾いていたため、チェーンソーで追い口を入れながらクサビを打って重心を移動させて伐倒しようとした。伐倒者が追い口を入れた直後に被災者がクサビを打ったところ、伐倒木がねじれるようにして西側に倒れたことから、伐倒木の山側根元にしゃがんでいた被災者の腰部に伐倒木の元口部分が激突した。被災者は病院に搬送されたが、出血性ショックにより死亡。

災害発生の状況

  1. この事業は、森林組合が個人所有の山林から約500m³のスギ立木を購入し、林業事業者に伐倒作業を請け負わせたものである。
  2. 事業主は労働者4人を使用しているが、災害当日は事業主の他労働者全員4人が現場で作業を行っていた。
  3. 伐倒者Aは傾斜約30度の場所にあるスギ立木(胸高直径58cm、樹高36m)を北側方向(谷側)に倒すこととしたが、この立木は南側(山側)に傾いており、また、枝が著しく片枝になっていたことから予定した方向に倒すには重心が反対側であると判断した。そこで、通常の方法では伐倒が困難と考え、追い口を入れると同時にクサビを打って木を起こすようにして倒すこととした。
  4. このため伐倒者Aは近くで下刈作業をしていた労働者B(Aの妻で本災害の被災者。以下「被災者」という。)を呼び、追い口にクサビを打つよう頼んだ。伐倒者Aは追い口を入れ、同時に被災者は追い口にクサビ2本入れて斧のミネで打ちつけた。
  5. クサビを打っている時、突然当該伐倒木は西側にねじれるようにして倒れ始めたため、伐倒者Aは近くの立木の根元に退避すると同時に大声で被災者にもこの場所に来て退避するよう叫んだ。被災者はその方向に逃げる途中でしゃがみ込んだところ、倒れてバウンドした伐倒木の木口が被災者の腰部に激突し、被災者は斜面を7m程転落した。
  6. 被災直後は出血もなく意識もあったが、搬送された病院で骨盤輪骨折による出血性ショックにより死亡した。

災害発生の原因

  1. 立木のある場所の傾斜の状況、枝の状態、重心の位置を勘案せずに、伐倒方向を決めたこと。
  2. 伐倒の際、「つる」がほとんど残らないような伐倒を行ったこと。
    (注)当該伐倒木の伐根は「受け口」と「追い口」の段差がほとんどなく、このため「つる」ができなかったものである。
  3. 危険区域内(伐倒木の樹高の1.5倍の距離の範囲内)から伐倒作業者以外の作業者(被災者)を伐倒前に退避させなかったこと。
  4. クサビの大きさが異なるクサビ(2本)を使用したこと。
    (注)大きさが異なるクサビであったため、大きいクサビの方が伐根より早く離れ、伐倒方向が狂った可能性があること。
    casestudy032

災害防止対策

  1. 立木の伐倒に当たっては、傾斜の有無や程度、枝の状態、偏心の有無や程度等を勘案し、伐倒方向を決めること。
  2. 伐倒に当たっては、適切な受け口及び追い口を設け、「つる」を残すこと。
  3. 立木を伐倒するときは、立木の樹高の1.5倍の距離の範囲を危険区域とし、他の作業者を立ち入らせないこと。
  4. 伐倒に当たって、伐倒者は立木の伐倒前に退避場所をあらかじめ設けておくこと。
  5. クサビを使用する場合、原則として2個以上使用することとし、同じ大きさのものを使用すること。
  6. 著しく偏心している木を重心と反対方向に伐倒するときは、チルホール等のけん引具とガイドブロックを用いるなど、安全で確実な方法を選択すること。
  7. 伐倒方向は、一般的には斜面の横方向か斜め下方を選択すること。