災害事例研究 No.34 【林業】
ラジキャリでけん引しながら、間伐木を伐倒したところ、突然、伐倒方向が狂い、リモコンを操作していた作業者が伐倒木に激突された
葉枯らしをするために、ラジキャリを使用して間伐木をけん引しながら山側に伐倒したところ、突然、伐倒木の元口が伐根から外れ、林地斜面に落下して転位したため、伐倒方向が狂い、ラジキャリのリモコンを操作していた作業者が伐倒木に激突された。
災害発生の状況
- 被災者は、スギ人工林(林齢:約100年生)において、同僚と二人で高齢級間伐作業に従事していた。
- 被災当日、前日に引き続き、葉枯らしをするために、間伐対象木を山側に伐倒することとし、被災者が、ラジキャリを使用してけん引するためにラジキャリのリモコン操作を担当し、同僚が、伐木作業を担当していた。
- 被災者が、間伐対象木であるスギ(伐根径:短径40cm、長径55cm、樹高:約27m)をリモコン操作によりけん引しながら、同僚が伐倒したところ、突然、伐倒木の元口が伐根から外れて林地斜面に落下して転位したため、伐倒方向が左側に30~40度狂い、被災者に激突した。
被災者は、伐倒木の激突により背骨と大腿部を骨折し、病院に搬送後、死亡が確認された。
災害発生の原因
1.直接の原因
本災害の「直接の原因」としては、被災者がラジキャリのリモコンを操作して当該木をけん引した際に、当該木の「つる」が十分に機能していなかったこと、高さ約2mの位置にワイヤロープを掛けて低い位置をけん引したことにより、当該木の元口が伐根から外れて、林地斜面に落下したため、元口が支点となって転位し、伐倒方向が狂ったことが挙げられる(写真1、写真2参照)。
- 当該木の伐根の状況を調査したところ、足場の悪い傾斜地であったにもかかわらず、受け口の下切りと追い口切りは、ほぼ水平に切り込まれ、追い口切りの高さの左右のバランスも適切であったが、受け口の下切りと斜め切りの切り終わりが一致しておらず、受け口の下切りが切り込み過ぎていた。また、特に、伐倒方向の左側の谷に面している箇所の受け口の下切りが深く切り込まれていたことから、何らかの理由により、作業途中において、伐倒方向を変更したものと推測される(写真3、写真4参照)。
- 他の伐倒木の伐根の状況についても調査したところ、当該木と同様に伐倒されており、足場の悪い傾斜地であったにもかかわらず、受け口の下切りと追い口切りは、ほぼ水平に切り込まれているなど、熟練した作業であることが伺えることから、「受け口の下切りと斜め切りの切り終わりを一致させる」という伐木作業の基本を理解していなかったとは考え難い。
このため、伐倒木が倒れる際に伐倒木の元口を伐根から外すために、日頃から、意識的に「つる」が機能することを制限して伐倒していたものと推測される(写真3、写真4参照)。
2.誘 因
本災害の「誘因」としては、次のことが挙げられる。
(1) 被災者が安全な箇所に確実に退避していなかったこと。
- 被災者は、当該木の樹高が約27mあるにもかかわらず、被災箇所は、伐倒箇所から約24mしか離れておらず、危険区域内において、ラジキャリのリモコン操作をしていた(写真1参照)。
- 伐倒予定線沿いの左側に位置する立木にガイドブロックを取付け、けん引していたことから、伐倒方向が大きく狂うことを予測していなかったものと考えられること、また、伐倒予定線と被災者がいた箇所との間には、立木があり、被災位置がその陰にあったことから、被災者は、当該箇所を「安全な箇所」と考え、ラジキャリのリモコン操作をしていたものと推測される(写真1、写真5参照)。
(2) 当該地の間伐作業は、「定性間伐」により実施していたが、間伐対象木を事前に選木せずに、伐木作業を実施しながら選木していたため、選木に際して、安全確保の観点からの検討が十分でなかったこと。
- 当該地の状況を勘案すると、当該木の右斜め上方に位置している立木を間伐対象木とすべきであったと思われる(写真1参照)。
- 伐倒予定線の右側に位置している立木については、当該木を伐倒した際に接触する可能性が極めて高いことから、当該木が撥ねたり、かかり木となったりする危険性があるため、間伐木として、事前に伐倒しておくべきであったと思われる(写真1、写真5参照)。
災害防止対策
1.伐木作業に係る対策
(1) 伐木作業を実施するに当たっては、「林業・木材製造業労働災害防止規程」に規定されている安全基準等に則して、「受け口切り」と「追い口切り」を適切に行い、伐倒木の「つる」の機能を最大限に発揮させること。
- 具体的な伐木作業に係る安全基準については、本誌2010年2月号(NO.732)に掲載されている災害事例の「災害防止対策」を参照されたい。
- 労働安全衛生法等の関係法令において規定されている安全基準は、「労働災害の防止のための最低基準」であるため、これを遵守するだけでは労働災害を防止することは困難な状況にある。
このため、労働災害防止団体法は、労働災害の防止のために必要な措置を講ずる責務を有している事業者によって設立された労働災害防止団体に労働災害防止規程を制定(厚生労働大臣の認可が必要)させるとともに、これを遵守することを会員事業場に義務付けしているところであることから、「林業・木材製造業労働災害防止規程」に規定されている具体的な安全基準を遵守しなければ、労働災害を防止することは困難であることを十分に認識すること。
(2) 伐木作業を行うときは、伐倒者以外の作業者は、立木の樹高の1.5倍の範囲内の立入禁止区域から退避し、近接作業を排除すること(林業・木材製造業労働災害防止規程第16条)。
- 立入禁止区域から退避するに当たっては、伐木作業箇所の上方向(やむを得ない場合は横方向)に退避するものとし、絶対に下方向には退避しないこと。
- 退避するに当たっては、十分な距離を退避したつもりであっても、樹高の判断ミス等により、本災害のように、立木の樹高の範囲内である場合が多く見受けられることから、慎重に判断の上、退避すること。
2.間伐対象木の選定に係る対策
- 間伐作業を実施するに当たっては、当該林分の状況等を十分に把握の上、安全の確保及び作業の効率的実施等の観点から慎重に検討の上、事前に間伐対象木を選木するようにすること。
なお、間伐対象木を事前に選木していている場合であっても、伐木作業を実施するに当たり、危険を感じたり、戸惑いを感じたりするときには、伐木作業をそのまま継続せずに、一旦、作業を中断の上、再度、慎重に選木するようにすること。 - 当該林分のような高齢級間伐の林分やかかり木になりやすい林分等の場合には、可能な限り「列状間伐」を採用するよう検討すること。
おわりに
林業における平成10年から平成22年までの死亡災害の現状を見ると、伐木作業中、同僚が伐倒木に激突される、いわゆる「他人伐倒」による死亡災害は、伐木作業による死亡災害の約25%と、4分の1を占めている。
このように、「他人伐倒」による死亡災害は、本誌2012年1月号(NO.755)の災害事例においても紹介したように、繰り返し発生しており、極めて憂慮すべき状況にある。
この悲惨で取り返しのつかない「他人伐倒」による労働災害を防止するためには、伐倒者は、伐木作業の基本を遵守し、伐倒木の「つる」の機能を最大限に発揮させるとともに、「合図」と「指差し呼称」を確実に行い、周囲の安全を確認してから伐木作業を行い、また、伐倒者以外の作業者は、立入禁止区域から迅速かつ確実に退避し、伐倒者から終了合図があるまでは、安易に退避場所から出ないようにすることが必要不可欠であることを十分に認識の上、慎重に作業に当たることが肝要である。