災害事例研究 No.55 【林業】
かかり木処理作業を中断し、処理作業に支障となる残存木を先に伐倒していたところ、突然、倒れてきた「かかり木」に激突された
間伐木を伐倒したところ、かかり木となったことから、ターニングフックを使用して、かかり木を回転させて処理しようとしたが、「かかり木」を回転させる段階になって、このまま、かかり木処理作業を継続すれば、前方にある残存木に「かかり木」となる可能性が高いと考え、かかり木処理作業を中断して、当該残存木を先に伐倒していたところ、突然、外れて倒れてきた「かかり木」に激突された。
災害発生の状況
- 被災当日、被災者は、間伐作業地において、午前中、フォワーダによる運材作業とプロセッサによる集材作業に従事し、午後から、作業路と沢との間の狭小な間伐作業地において、一人で伐倒作業に従事していた。
- ヒノキ(胸高直径:約25cm、伐根直径:約33cm、樹高:約19.5m、以下「伐倒木」という。)を谷側に伐倒したところ、伐倒方向が狂い、残存木Aに「かかり木」となった(写真②参照)。
- このため、ターニングフックを使用し、かかり木を回転させて処理しようとしたが、「かかり木」を回転させる段階になってから、このまま、かかり木処理を継続すれば、前方にある残存木(以下「残存木B」という。)に「かかり木」となる可能性が高いと考え、かかり木処理作業を中断して、残存木Bを先に伐倒していたところ、突然、かかり木が外れて倒れてきた伐倒木に激突され、急性肺挫傷により死亡した(写真②参照)。
災害発生の原因
本災害の発生原因は、現地調査の結果等から、次に示すものと推定される。
直接の原因
かかり木処理作業を中断し、かかり木を放置したまま、伐倒方向前方にあった残存木Bを先に伐倒したこと。
なお、「残存木Bを先に伐倒した理由」としては、次のことが推定される。
- 被災者は、ワイヤロープを利用したターニングフックにより伐倒木を回転させてかかり木を処理するために、回転させる側(山側)の「つる」の一部をチェーンソーで鋸断し、伐倒木を回転させる段階になって、このまま、かかり木処理作業を継続すれば、前方にある残存木Bに「かかり木」となる可能性が高いと気づいた。(写真②、写真⑤参照)。
- このため、被災者は、伐倒木の「つる」の一部は鋸断したものの、まだ、伐倒木を回転させていない段階であることから、かかり木が外れることはないであろうと考えて、かかり木処理作業を中断し、残存木Bを先に伐倒することとした。
- なお、被災者は、基本どおりクサビを使用して慎重に残存木Bを山側に伐倒していたが、左利きであったため、「かかり木」となっている伐倒木に背を向けて、残存木Bにクサビを打ち込んでいるときに、突然、「かかり木」となっていた伐倒木が倒れてきたことから、これに気づくのが遅れ、背中と腰部を直撃されたものと推定される。
誘因
- 伐倒木が「予期しない方向」に倒れ、残存木Aに「かかり木」となったこと(写真②参照)。
なお、「伐倒木が予期しない方向に倒れた理由」としては、次のことが推定される。- 伐倒木の伐倒方向の選定に当たり、山側は、かかり木となる可能性は極めて低いものの、作業路Aの路肩までが約3.3mと近距離であり、その上方には、作業路Bの路肩が張り出していたため、伐倒木を伐倒した際に元口が大きく跳ね上がる危険性が高いことから、他の方向に比べ、かかり木となる可能性が比較的低い谷側に伐倒することとした。(写真①、写真②参照)。
- しかし、伐倒木を谷側に伐倒する際における次の被災者の作業行動が複雑に影響し合ったことにより、伐倒方向が右側に狂い、残存木Aの右側(山側)に倒れた。
㋐ 受け口の切り終わりの線が伐倒方向に正対しているか否かの確認が不十分であったため、受け口の切り終わりの線が伐倒方向に正対しておらず、残存木Aに向いていたこと(写真②参照)。
㋑ 受け口の深さが7cm と浅く、根張りを除いた伐根直径の4分の1以上の深さとなっていなかったこと(写真③参照)。
㋒ 追い口を切り込み過ぎており、根張りを除いた伐根直径の10分の1程度の幅を持つ「つる」が確保されていなかったこと(写真③参照)。
㋓ 伐倒木は、基本どおりクサビを2個使用して伐倒されていたが、クサビを受け口の切り終わりの線に対して斜めに打ち込んだため、残存木Aの方向に倒れやすい状況となっていたこと(写真③参照)。
㋔ 伐倒木の「つる」の高さが、伐倒方向の右側の「つる」の高さが5cm、左側の「つる」の高さが3cm と異なっていたことから、残存木Aの方向に倒れやすい状況となっていたこと(写真④参照)。
- プロセッサを使用して「かかり木処理」ができる箇所であったにもかかわらず、一人でワイヤロープを利用したターニングフックにより「かかり木」を回転させて処理しようとしたこと。
なお、被災者は、通常、かかり木処理作業を行うに当たっては、プロセッサが使用できる箇所においては、プロセッサで処理し、プロセッサが使用できない箇所についてのみ、ワイヤロープを利用したターニングフックにより「かかり木」を処理していたが、伐倒木が「かかり木」となったときには、プロセッサが少し離れた作業路Bにおいて作業していたこと、無線機等のプロセッサの運転者との連絡手段がなかったことなどから、プロセッサの運転者に、かかり木処理を依頼せずに一人で処理することとしたものと推定される。 - 事前に間伐対象木の選木を行わず、伐倒作業を実施しながら選木していたため、安全確保の観点からの検討が十分でなかったこと。
なお、作業路の上方斜面にある間伐作業地については、「列状間伐」を採用していたが、被災した作業地は、作業路と沢との間の狭小な区域であったことから、「定性間伐」を採用し、伐木作業を実施しながら間伐対象木を選定していた。
災害防止対策
- かかり木が発生したときは、常に、かかり木の状況に注意を払いながら、当該林分の事前踏査の段階において選択した機械器具等を適切に使用し、速やかに処理すること。
平成11年から平成24年までの「かかり木処理作業に係る死亡災害」の状況を見ると、「かかり木の放置」によるものが29 .7%と最も多いことから、かかり木は、『外そうとしているときには、なかなか外れないにもかかわらず、外れなくてもいいときに外れるのが「かかり木」である』という認識の下に、自ら進んで危険な状態に身を置くこととなる「かかり木の放置」は、絶対にしないこと。
また、やむを得ない事由によりかかり木を一時的に放置せざるを得ない場合においては、必ず、かかり木に標識の掲示を行うとともに、縄張り等の措置を講じ、他の作業者等が誤って近づくことのないようにすること。
なお、かかり木処理に使用する機械器具等を選択するに当たっては、予備の機械器具等についても選択の上、これを作業現場に必ず携行し、かかり木処理作業が最初に使用した機械器具等では困難な場合には、速やかに、予備の機械器具を使用して処理することとし、かかり木処理作業を中断し、かかり木を放置しないこと。 - 車両系木材伐出機械等が使用できる場合においては、当該機械を最優先に使用して、かかり木処理作業を行うこと。
このため、かかり木処理に当たっては、車両系木材伐出機械等を最優先に使用する旨を車両系木材伐出機械等の運転者、伐倒者等の関係作業者に対して、あらかじめ周知しておくこと。
また、かかり木が発生した場合において、伐倒者が車両系木材伐出機械等の運転者に速やかに連絡が取れるように無線機等の連絡手段を整備しておくこと。 - かかり木となる可能性の低い方向を伐倒方向に選定の上、あらかじめ、その方向にある「かん木」等を処理した後に、「受け口切り」と「追い口切り」を適切に行い、確実に、その方向に伐倒すること。
伐倒者が予期していない方向には、残存木があったり、事前処理されていない「かん木」等があったりすることから、「かかり木」となって、本災害のように、「負の連鎖」により、次から次と障害が発生することなどに起因する悲惨な災害が発生したり、「かん木」等に当たって元口が跳ね上がったりすることなどに起因する災害が発生することが危惧される。
このため、『安全な伐木作業に求められる「受け口切り」と「追い口切り」の基本動作』(林材安全2014年1月号参照)において述べた「受け口の切り終わりの線は、必ず伐倒方向に正対させる。」等の伐木作業の基本動作を踏まえて、予定した伐倒方向に確実に伐倒すること。
なお、立木と立木の間隔が狭く、大変込み入った状況の作業地においては、どの方向に伐倒しても、かかり木となる可能性が高いことから、かかり木になっても処理し易い方向を伐倒方向に選定の上、立木の樹高の3分の1程度の高さに、あらかじめ、けん引するためのワイヤロープ等を取り付け、慎重に伐倒すること。 - 間伐対象木の選定に当たっては、立木の配置状況、林分密度等を踏まえ、伐倒に支障となる立木の把握、伐倒の優先順位等について、安全の確保、作業の効率的実施等の観点から慎重に検討の上、事前に間伐対象木を選定するようにするとともに、可能な限り「列状間伐」を採用するよう検討すること。
なお、間伐対象木を事前に選定している場合であっても、伐木作業を行うに当たり、危険を感じたり、戸惑いを感じたりしたときには、伐木作業をそのまま継続せずに、一旦、作業を中断の上、再度、慎重に間伐対象木を選定し直すようにすること。