災害事例研究 No.56 【林業】
かかり木を外そうと3度にわたって元玉切りを繰り返したところ、かかり木が落下して被災者に激突した
スギ、ヒノキ混生林分の保育間伐事業を実行中、山頂近くの緩傾斜地に生立するスギを斜め下方に伐倒したところ、隣接するヒノキにかかり木となった。
これを外そうと順次元玉切りを行い、3度目の切り離しを終えた際に、先端部が絡まった位置を支点に垂直方向に振れて落下。折り返す形で伐根方向に倒れて被災者に激突、押圧されたものと推測される。
災害発生の状況
- 被災者を含む3名が山割りに従い間伐に従事。同僚が午後の作業を終えて下山の途上、被災者がうつ伏せ状態で伐倒木の下敷きになっているところを発見した。同僚は、救命措置を施しながら救急搬送したが、収容先の医療機関で頸椎骨折外傷性圧迫による呼吸困難での死亡が確認された。
(以下、現場状況からの推測) - スギ、ヒノキ人工林の保育間伐作業で、林地傾斜10度前後のなだらかな山頂斜面に生立するスギ(伐根直径28cm、樹高約18m)を斜め下方に伐倒したところ、約7.5m離れたヒノキにかかり木となった。
- これを外そうと、最初に元口から1.5 mの位置で元玉切りをしたが処理できないため、さらに、1.2m、1.5mと順次元玉切りを行った。
- 3度目の切り離しを終えたときに、先端部分の新たな元口(直径16cm)が振り子のようにかかられたヒノキのほうに振れて地面に落下するとともに、梢端側が伐根方向に折り返すように倒れ、被災者の背面に激突した。
- 被災者は、先に玉切りされて連なって横たわる丸太と、覆い被さった先端部分の幹に首から胸を挟まれる形でうつ伏していた。
災害発生の原因
- かかり木の処理に当たって、「かかり木の処理の作業における労働災害防止のためのガイドライン」(以下、「かかり木ガイドライン」という)において禁止されている「かかっている木の元玉切り」を行ったこと。
- 作業間隔が広すぎて、隣接作業者の動向の把握ができなかったことが最悪の事態に至ったともいえる。
災害防止対策
- かかり木ガイドライン(「かかり木の処理の作業における労働災害防止のためのガイドラインの策定について」平成14 .3. 28基安安発第0328001号)が示されてから10年以上を経ても依然として、かかり木処理の禁止事項に反する行為による労働災害が後を絶たない。安全作業のための知恵は十分周知されているはずであり、それを活かすためには、必要とする時にいつでも使用できるようにロープやフェリングレバー、チルホール等の牽引具の携行を習慣づける必要がある。
- 山割りに際しては、作業者相互にその動向を察知できる距離に注意することも必要である。やむを得ず、チェーンソーのエンジン音、伐倒木の倒伏音等も感知できないほどの距離をとるような場合には、責任者が定時あるいは随時に見回る等様子を把握し、早期に異変を知るための備えが必要である。