災害事例研究 No.66 【林業】
伐倒方向が変わり、斜面を滑落した伐倒木の枝が伐倒者に激突
急傾斜地で立木を横向きに伐倒しようとしたが、90度方向が変わり、山側に倒れ、斜面を滑落して、伐根近くにいた伐倒者に伐倒木の枝が激突した。
災害発生の状況
- 間伐によるトドマツ立木販売事業で当日は朝から7名で現場に入り、5名が林業機械のオペレータ、被災者と同僚の2名がチェーンソーによる伐倒作業に従事していた。
- チェーンソー作業はそれぞれ離れて単独で伐木を行っており、被災者は昼食後、午後の伐倒作業に入ったが、午後3時の集合時刻に戻ってこないため、同僚が捜しに行ったところ、チェーンソーのエンジン音だけが聞こえていて、不審に思ってエンジン音の方へ行ってみたところ伐根から1.5mほど谷川で、伐倒木のそばに座っているところを発見された(写真1)。
- 発見時は呼びかけにうなずいており、直ちに同僚を呼び、救急車の手配がされ、現場から65kmほど離れた総合病院へ搬送されたが、同病院で死亡が確認された。
- 被災場所は北側向きの32度から36度の急傾斜地で、等高線方向に作業道があり、作業道に沿って伐倒するため、西側に向けて受け口が切られ、横方向への伐倒が予定されていた。
- 伐倒したトドマツは胸高直径34cm、樹高22mほどで、伐根の状況は受け口の水平切が18度、追い口も12度沢側に傾いて切られていた(写真2、3)。
- 元口(写真4)の形状からは追い口が受け口の会合線からさらに3cmほど深く切り過ぎた状態になっていて、伐根の状況は山側に若干のつるが見られるが、腐れもあってほとんどつるの機能は残っていなかったと推定される。
- くさびを打った跡もあることから、受け口、追い口を切り、くさびを打っている最中に、予定の西側横方向には倒れず、予定方向から90度変わった山側(南側)に倒れ、同時に沢側に元口が約11m滑落し、同伐倒木の枝に激突されたものと推定された。
災害発生の原因
- 急傾斜地の伐倒は、緩斜面と比較して極めて危険で不意の出来事が起きやすいにもかかわらず確実なつるを残した伐倒方法がとられていなかったこと。
- 受け口の下切り、追い口の切り込みが水平に切られておらず、冬季の伐採においてさらに滑りやすい状況を作ったこと。
災害防止対策
- 急傾斜地では特につるを十分利かし、追い口の高さを余分に取るなど退避時間が確実に確保できる伐倒方法とすること。
- 現場入場前に、リスクアセスメントを実施し、作業員がリスク回避できる方法を確実に習得させること。
- 偏心した木に対してはワイヤロープによるけん引も考慮すること。