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災害事例研究 No.78 【林業】

伐倒したスギが、当初の伐倒方向からずれて 藪かげに退避していた被災者の頭部を直撃

 スギ材の皆伐作業中、伐倒したスギが当初の伐倒予定方向からずれて、退避していた被災者の頭部を直撃し、死亡したものである。

災害発生の状況

 被災者は、同僚の伐採作業従事者である班長A、重機オペレーターBとともに、午前9時頃から屋敷跡地(平地)のスギ材の皆伐作業に従事していた。
 午前中の作業は順調に進んだが、午後の作業にかかり、経験約6年の班長Aが、スギ58年生(樹高20m、胸高直径約30 cm、伐根直径約40 cm)を伐倒することとし、障害物がなく道路側である南方向に伐倒するべく、チェーンソーを用いて受け口を入れ、追い口を入れて伐倒したところ、枝の張り具合で偏心していたため、伐倒予定方向から約120度北西側に回転して、被災者の退避場所に倒れ、被災者の頭部を直撃したものである。

災害発生の原因

  1. 伐倒作業者Aは、伐倒時の合図を決めず、呼子を所持していたにもかかわらず、同僚作業者の退避を確認することなく、また合図もなく伐倒したこと。
  2. 伐倒に当たり、つるを残し、くさびを打ち込むことにより、伐倒方向に確実に伐倒する手順を省略したこと。写真のとおり、つるを取った後が認められない。
  3. 被災者の退避場所が伐倒場所から約20mと、伐倒木の樹高(約20m)に対し十分な退避距離を取っていなかったこと。
  4. 被災者の退避場所が藪かげであったため、Aからは死角となり、Aが目視による避難確認ができなかったこと。
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    被災者に激突したスギの伐根
    つるを取った痕跡が認められない
    casestudy078_2
    赤星が被災場所 伐倒者からは死角となる
    黄色線が伐採木の状況
    casestudy078_3
    他の伐根にも、有効なつるの痕跡が認められない

災害の防止対策

 林業において、伐木作業は最も危険度の高い作業の一つです。このため厚生労働省では、労働安全衛生規則第8章「伐木作業等における危険の防止」第1節「伐木、造材等」で伐木、造材時の取るべき最低限の安全対策を定めています。また、平成27 年12 月には『チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」という。)を策定し、労働災害防止対策の一層の推進を図っています。
 さらに、林業・木材製造業労働災害防止協会では、平成27 年10 月に『林業・木材製造業労働災害防止規程』(以下「災防規程」という。)を制定し、より安全に伐木作業を行うよう指導しているところです。
 本件死亡災害の原因は前述したとおり、

  1. 伐木時の安全対策について、関係法令を遵守していなかったこと。
  2. 伐倒するに当たり、災防規程に定められた作業手順を省略し、伐倒したこと。
  3. 被災者が、災防規程に定められた退避距離を取らず、かつ、退避場所が伐倒者の死角であったこと。

 であるが、関係法令、ガイドライン、災防規程を遵守するだけでは、労働災害を完全に防止できるとは限らない。日頃から、関係法令等の教育と遵守、ショートカットの防止等について繰り返し教育するとともに、リスクアセスメント、作業開始前のKY、使用機械の管理・保守等を確実に実施し、作業者の安全意識の向上を図ることが肝要です。
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