災害事例研究 No.82 【林業】
走行集材機械走行中、運転者の頭部が車体と立木との間に挟まれる
間伐したスギ材の集材のため、走行集材機械の運転室から顔を出して走行中、被災者の頭部が運転席の枠と立木の間に挟まれ、死亡したものである。
災害発生の状況
被災者は、同僚の運転する木材グラップル機とともに、走行集材機械(吊り上げ装置が付いていないため、同僚が操作するグラップルで荷台に積載していた。)を運転して、作業道を移動しながら、間伐したスギの原木の集材作業に従事していた。
被災者らは、作業道支線に残っていた3本の原木を集材するため、最初に木材グラップル機が先行して奥側にあった原木①を手前に移動してきた。同時に、被災者は、作業道が狭いため、支線入口から集材場所と考えたところまで後進した。
被災者は、グラップルでの積載がしやすいように、走行集材機械(車幅約2 . 2m)を道幅約3 . 7 mの作業道の谷側に移動させたが、谷側路肩にはスギ立木A(胸高直径40 cm、高さ約24 m)が、また、作業道の前方路肩寄りにはスギ伐倒後の根株B(直径約35cm、高さ約50 cm)があり、さらには、作業道の山側からは次に集材する予定のスギの原木②と③が作業道に数10 cmはみ出した状態で置かれていた(図1)
このような状況の中、被災者は、頭部を運転室の枠(梯子)と立木Aの間に挟まれたものである。なお、被災者の保護帽は近くで発見されたが、損傷がなく、被災時に着用していたかどうかは不明であった(図2)。
目撃者がいないため断定はできなかったが、被災者は、先に集材しようとしている原木①と次に集材する予定の原木②、③を積載するためには、走行集材機械をできるだけ谷側に寄せた方がよいと考えて、運転席から身を乗り出して前後の状況を確認しながら前後進を繰り返していたとき、立木Aと車体の間隔が狭まり、被災したものと推定された。
災害の発生原因
- 原木①~③を同じ場所で集材しようとしたこと。
- 走行集材機械について、立木や根株など障害物が多い場所で無理な走行を行ったこと。
- 安全衛生教育が十分に行き渡っていなかったこと。
- 障害物に考慮した作業計画が樹立されていなかったこと。
災害の防止対策
本災害は、車両系木材伐出機械が法規制される前の災害である。
現在、走行集材機械を含む車両系木材伐出機械については、労働安全衛生規則において、運転業務を行う者に対する特別教育の実施のほか、作業現地の調査を踏まえた作業計画の策定や作業指揮者の配置、転落防止、接触防止、立入禁止等々が規定されている。また、林業・木材製造業労働災害防止規程では更に具体的に規定されている。
本災害の対策としては、
- 走行に支障がないよう、手前側の原木②、③を最初に集材させること。
- 事前の現地調査で知り得た状況に適応した作業計画を作成して、関係作業者に周知するとともに、作業指揮者に作業計画に基づいて指揮させること。
- 車両系木材伐出機械運転者に対して、運転時の危険防止について特別教育(当時は、「安全衛生教育」)を実施すること。
- 保護帽をきちんと着用していなかった可能性があり、着用状況を指導、確認すること。
車両系木材伐出機械は便利ではあるが、危険を伴うものでもある。これまで想定もしなかった労働災害が発生するおそれもある。最近でも、「走行集材機械のバック走行中に死角となっていた路肩から転落する災害」や「4mの原木と思ってグラップルでつかみ上げたら玉切り前のもので、造材手が慌ててしがみついたものの振り飛ばされる災害」、「グラップルで移動中の原木に激突される災害」などが相次いで発生している。是非とも、関係法令や林材業労働災害防止規程を守って安全作業に努めていただきたい。