災害事例研究 No.98 【林業】
枯れた松の木を伐倒中、上部の幹が折れて落下し激突される
間伐作業中、伐倒作業の支障となる枯れた松の木を伐採したところ、その伐採木の幹が数カ所で折れ、落下した幹の一つに激突され、被災したと推察される。
災害の発生状況
被災者は、同僚2名と100メートル程度離れて、間伐作業を行っていた。間伐対象林分内に枯れた松の木(胸高直径40センチメートル、樹高22メートル)があり、間伐の支障となるため先行して伐採を行ったところ、枯れた松の幹は倒れた際に近くの立木の枝に当たって複数に折れて、その一つ(元口直径26センチメートル、末口直径16センチメートル、長さ6.4メートル)が被災者の方向へ落下して激突したと推察される。枯れた松の木は根本付近が大きく傾斜し、梢端部に向かって上方に伸びた根曲がり木であり、被災者は梢端部が折れて自分の方向に落下することを想定していなかったと推察される。
枯れた松の木の伐倒にあたり、基本どおりの受け口・追い口を作っておらず、また、地面に対しては、斜めに切り口が入っているため、伐採木は勢いよく切り離れて落ちた可能性がある。
災害の発生原因
- 受け口を作らず地面に対しては斜めに切ったことにより、勢いよく落下して倒れたこと。
- 枯れ松が伐倒方向の隣接木の枝に当たって、梢端部が折れて落下したこと。
- 伐倒前に隣接木等の周囲の状況の確認が不足したこと。
- 枯れた松の木はどの程度腐朽しているか確認しなかったこと。
災害の防止対策
- 受け口、追い口等基本的な伐採方法を省略せずに行うこと。
- 一般的に枯れ木を伐採する場合は、受け口の深さは浅く(5分の1~6分の1程度)、つる幅は広く(10分の1~10分の3程度)すること。
- 枯れた木が隣接木に当たらないよう、ロープ等により伐倒方向を規制する方法を選択すること。
- 枯れた松がどの程度腐朽しているか、伐根部や幹部をハンマー等で叩くとか、幹部をチェーンソーで縦に切るとか、突き刺すとかして確認すること。
- 枯れた木を伐倒するときは無理に一人で作業せず、同僚に声を掛けて相談・協力して対応すること。
- 安全に伐倒することが困難な場合は、伐倒することをやめること。
平成29年1月~8月末までの林業死亡災害の発生状況をみると、昨年、伐倒木が被災者に飛来し激突する災害が1件であったものが、本年は6件発生している。
その災害の概要は、
- 以前に伐倒した元口付近に幹部分が衝突して根元が跳ね上がり(2件)
- 伐倒木が斜面上方にあった風倒木を支点として根元が跳ね上がり(1件)
- 伐倒先の小高い丘に当たりバウンドして根元が跳ね上がり(1件)
- 林道脇下方の窪地の立木を斜面の上方に伐倒した反動により、根元が跳ね上がり(1件)
- 枯れ木を伐倒したところ幹が近くの立木の枝に当たって幹が折れて落下(1件)
などである。
これらの災害は、伐倒前の準備作業における確認不足と退避が遅いことが大きな要因である。このため、対策として伐倒作業前に次の事項について留意すること。
- 伐倒木の周囲の確認
伐倒木の周囲の地形(凹地形や凸地形、傾斜等)、以前に伐倒された伐倒木や風倒木等の状況を確認すること。 - 伐倒方向の選定
上記の周囲や伐倒木の状況等を把握した後、安全に伐倒できる伐倒方向を選定すること。 - 伐倒方法の選定
特に上方向への伐倒は、起こし木となるため伐倒に手間がかかる上、元口が跳ね上がり易いので、対策として、つるを切り過ぎないことが重要であり、熟練者による「追いづる切り」等の伐倒方法が望まれる。 - 退避場所の選定
伐倒前に退避場所を選定しておくこと。また、伐倒木が倒れ始めたら直ちに退避場所へ退避すること。