災害事例研究 No.103 【林業】
ドラグショベル操作中、急斜面を転落したが、左肘骨折のみで一命は確保
ドラグショベルにより作業道を作設中、急斜面を35m転落し、谷底にキャビンを下にして停止。キャビン内のオペレーターはシートベルトを着用していて大事に至らなかった事例。
災害の発生状況
- 60年生のスギの伐採現場において、作業道の作設をドラグショベルを用いて行っていた。災害発生現場は、表土は薄く、その下には軟岩という地質であった。
オペレーターは林業会社において車両系建設機械を専門に担当しており、経験年数が13年の作業員であった。
幅員が3.5mの作業道を掘削していた際、斜面がゆっくり地滑りを起こし、重機が斜めになっていくのを感じた。とっさに山側に旋回してバケットを斜面に突き立てたが支えきれず、谷底まで約35m、重機と共に転落した。
オペレーターはヘルメットをかぶり、シートベルトは着用していたが、キャビンのドアは開いたままであった。運転席の後ろにゴンと頭をぶつけた後、一瞬記憶がなくなったが、気が付くと、谷底にキャビンを真下に、キャタピラーを真上の状態で停止していた。 - 逆さの状態から、シートベルトを外して脱出する際、左膝にドアのガラスが刺さっており、痛い思いはあったが、それ以外に特段異常を感ぜず、キャビンに備え付けている業務用無線機で他の作業員を呼ぼうとした。しかし、アンテナが地中に埋没しているためか、雑音しか聞こえず、自分で谷底から這い上がって行った。重機を見てみると、機体はあちこち破損していたが、キャビン内は大破することなく、自分を守ってくれた。
途中、キャビンに積んでいた自分のリュックサックが斜面に放り出されているのを確認した。谷底から這い上がり、身に着けていた呼子を吹いて非常事態を知らせた。 - 駆けつけてくれた同僚が、所持しているトランシーバーで班長に知らせ、班長は自動車の用意と会社への連絡を行ってくれ、病院にも手配がなされ、間もなく診察を受けることができた。
全治4週間の左肘骨折という診断であったが、シートベルトをしていたことから、車外に放り出されて下敷きになるようなことや、キャビン内であちこちを強打するようなこともなく、一命を取り留めたことを実感した。 - シートベルトを着用していたのは、同じ会社の建設機械担当の先輩が、そのようにすべきと指導していたためであり、特に急斜面の場合や、下り坂での運転操作については着用を意識するようになっていたものであった。
(オペレーターの証言より)
当該会社の安全対策
- 社長は、チェーンソー作業による危険については常に意識していたが、今般の災害があってからは、車両系建設機械に限らず、車両系木材伐出機械についても常時シートベルトを着用することを指示し、厳守させている。
また、運転席ドアについても、キャビンの強度保持上からも開けっ放しで運転することは禁止している。 - 会社は、林業以外にし尿処理やごみ収集などの事業も行っており、それらの必要性から、早くから簡易無線局の免許を取得していた。 林業現場においても、伐倒者のほか、伐木機械、運搬機械、集材機械、ミニバス、トラックなど、すべての労働者が無線機を所持し、総台数は50台を数える。
以前、死亡災害ではないが、マツの枯れ枝が落ちて伐倒者に当たり、気絶していたことについて、誰も気が付かずに終業時まで放置されていた事案があり、それ以降、無線機を活用して10時、12時、15時に全員が班長に定時連絡を入れることとしている。
無線機が配備されてからは、作業員間の意思疎通も活発になっているし、見通しのきかない箇所での連絡や、かかり木処理についての応援要請など、災害防止に関する重要場面での活用がなされている。
関係法令等
労働安全衛生規則第151条の93
事業者は、路肩、傾斜地等であって、車両系木材伐出機械の転倒又は転落により運転者に危険が生ずるおそれのある場所においては、転倒時保護構造を有し、かつ、シートベルトを備えたもの以外の車両系伐木機械を使用しないよう努めるとともに、運転者にシートベルトを使用させるように努めなければならない。
林業・木材製造業労働災害防止規程第81条(転倒時保護)、第98条(合図)