災害事例研究 No.106 【林業】
同僚が伐倒したスギが玉切り作業中の被災者の背中に激突
当日は被災者を含め3人で伐倒、造材作業に従事していたが、伐倒したスギを作業道上で造材作業をしていた被災者に伐倒木が直撃して死亡した。
災害の発生状況
- 当日は現地集合で、簡単な打合せを行った上で、スギの伐採作業にとりかかった。
被災者は作業道上でチェーンソーを使用して伐倒木の枝払いと玉切り作業を実施していた。 - 同僚である作業者が胸高直径約30cm、樹高約20mのスギを斜面の真横方向に倒すために受け口、追い口を切ったところ、予定した伐倒方向とは違う方向へ瞬時に倒れてしまった。
- 伐倒木の下側の作業道上で伐倒者に背を向けて枝払いと玉切り作業を行っていた被災者の背中に、スギ伐倒木が激突。被災者は玉切りをしていたスギとの間に挟まれて死亡した。
災害発生の原因
- 作業者の作業配置が近接作業であったこと。
- 樹高の2倍の範囲内(立入禁止区域)で作業していた他の作業者(被災者)をその範囲外に退避させなかったこと。同僚は被災者が玉切り作業中であることを眼下に見て、真横に倒せば大丈夫だと思っていたこと。
- 伐倒するときに、伐倒者が呼子などで伐倒の合図をして周囲の作業者に知らせなかったこと。
- 被災者が伐倒木に背を向けて玉切り作業をしていたことから、被災者の近くで伐倒作業を行っていたことを認識できず、自ら退避する機会を失ってしまったこと。
- 伐倒木の追い口を切り過ぎてつるが残っていなかったこと。このため伐倒方向が予定した方向に倒れず、しかも瞬時に倒れてしまったこと。
- KY 活動、ヒヤリハット、リスクアセスメントを実施していなかったことから、作業者の危険予知能力が低下していたこと。
災害防止対策
- 作業者の作業配置は、近接作業にならないよう、適正な配置に努めること。
- 伐倒者に、伐倒する前に周囲を見回して、伐倒する木の樹高の2倍の範囲内(立入禁止区域)に他の作業者がいないことを確認してから伐倒作業に着手するよう徹底させること。
- 伐倒時には、伐倒者に呼子などで伐倒の合図を行わせ、周囲の作業者に知らせるとともに、退避したことを確認すること。
- チェーンソーで追い口を切るときは、つるの残り具合を確認しながら行い、つるを確実に残すようにすること。
- KY 活動、ヒヤリハット、リスクアセスメントを継続して実施すること。
- 事業主は、すべての事業活動に労働者の安全確保の責任があることを自覚し、安全関係の情報を収集するなど日頃から安全対策の取組をしておくこと。
<「林業・木材製造業労働災害防止規程」参照条文(抜粋)>
(危険予知活動等)
第15条 会員は、危険予知ミーティング、指差し呼称を行う等の自主的労働災害防止の実施に努めなければならない。
(林材業リスクアセスメントの実施)
第16条 会員は、作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更した時は、関係法令に定めるところにより、建設物、設備、原材料、工具等による又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等の調査(以下この条において「リスクアセスメント」という。)を行い、その結果に基づいて、必要な措置を講じなければならない。
2 会員は、リスクアセスメント実践マニュアル等を活用して、定期的にリスクアセスメントを行うように努めなければならない。
(近接作業の禁止)
第50条 会員は、立木を伐倒する場合は、近傍の他の作業者を立木の樹高の2倍以上離れさせなければならない。
(伐倒作業前の準備)
第55条 会員は、伐倒作業に当たり、作業者に次の事項について事前に確認させ、必要な措置を行った後に伐倒させなければならない。
(1) 林道、歩道等の通行路及び周囲の作業者の位置、地形、転石、風向、風速等を確認すること。
(受け口及び追い口)
第61条 会員は、チェーンソーによる伐木の作業を行う場合には、作業者に、それぞれの立木について、次の各号に掲げる事項を行わせなければならない。
(4) 追い口切りの切り込みの深さは、つるの幅が伐根直径の10分の1程度残るようにし、切り込み過ぎないこと。
(くさびの使用)
第62条 会員は、チェーンソーによる伐木の作業を行う場合において、伐倒しようとする立木の重心が偏しているもの、あるいは、胸高直径が20センチメートル以上のものを伐倒しようとするときは、作業者に、同一形状かつ同じ厚さのものを組みにして、くさびを2本以上用いること等立木が確実に伐倒方向に倒れるような措置を講じさせなければならない。
(伐倒合図)
第63条 会員は、チェーンソーによる伐木の作業を行う場合には、伐倒について予備合図、本合図、終了合図を定め、かつ、作業者に、これらの合図を周知させなければならない。
(合図確認と指差し呼称)
第64条 会員は、チェーンソーによる伐木の作業を行う場合には、作業者に、次の各号に掲げる事項を行わせなければならない。
(1) 予備合図を行うこと。
(2) 他の作業者が退避したことを応答合図により確認すること。
(3) 本合図及び指差し呼称による確認を行った後、伐倒者以外の作業者が、立入禁止区域より確実に退避したことを確認してから伐倒すること。