災害事例研究 No.10 【林業】
立木を伐倒したところ、潅木の陰の窪地で作業していた被災者が伐倒木の下敷きとなった
被災者と同僚労働者Aの2人で民有林のスギ林で間伐作業に従事中、Aが伐倒に当たり、伐倒方向に誰もいないことを確認後、立木を伐倒した。その後、被災者の姿が見えないことからAが伐倒した立木の方向を探したところ、被災者が潅木の陰の窪地で伐倒木の下敷きとなっているのを発見した。
災害発生の状況
- 当該事業場は、事業主と常用労働者3人であり、従来、4人で同一現場で作業することが多いが、当日は1人が休んだことから午前中は事業主と被災者を含めた労働者2人の計3人で作業を行った。
- 事業主は、当日、体調不良のために午前中で作業を切り上げたが、その際、午後の作業については、「気をつけて作業をするように」と指示していた。
- 被災者とAは、午後の作業に当たり、Aが立木の伐倒を、被災者が伐倒木の枝払いという分担で作業に従事することとなった。
- Aはスギ立木(胸高直径38 cm、樹高27.4m)を伐倒するため、最初にチェーンソーで受け口を、次に追い口をとり、くさびを打つ前に伐倒方向を確認したところ、被災者の姿はなく、Aはくさびを2個打ってスギ立木を伐倒した。
Aは周囲に被災者の姿がないことから、伐倒木の周囲を探したところ、伐倒木から19.8m離れた窪地で伐倒木の下敷きとなっていた。直ちに、救急車で病院に搬送されたが、数時間後に被災者の死亡が確認された。 - 被災者の倒れていた場所は、深さ50~60cmの緩やかな窪地で、伐倒木と窪地の間には高さ110cm程度の潅木が茂っていた。
- 現場は市街地に近いスギの民有林であるが、長期間未整備の状態が続いたことから、民有林の周囲には潅木や背丈ほどある雑草が生い茂り、見通しは良くなかった。
災害発生の原因
- 事業主が午前中で現場を離れる際に、午後の伐倒作業に関し、一定の合図を定める等の安全確保について労働者に具体的、明確な災害防止対策を指示しなかったこと。
- 被災者とAの間で、スギ立木の伐倒に当たり、伐倒作業に当たっての合図を行わず、さらに潅木、窪地等の地形を踏まえた上での退避の確認をしなかったこと。
災害防止対策
- 事業者は、作業現場の地形、潅木の状況等に応じた具体的な災害防止対策を講じるとともに、労働者に周知すること。
- 立木の伐倒に当たっては、危険区域(伐倒木の樹高の1.5倍の範囲内)に労働者が立ち入らないよう、互いに位置確認を確実に行うこと。(林業・木材製造業労働災害防止規程第16条「近接作業の禁止」)
- 本件のような場所での伐倒作業における退避の確認は、呼び子による伐倒合図に加え、窪地、潅木等により死角になることも考慮し、必要に応じ、その場所まで赴き、退避の指示及び確認を確実に行うこと。
まとめ
- 立木の伐倒作業中に労働者が伐倒木の下敷きになる労働災害は後を絶たないが、その原因の多くは、伐倒方向の狂い、退避確認の不徹底に起因している。
本件災害は、被災者が伐倒方向にいないか一応確認した上で伐倒作業に着手したが、事実は被災者がいないのではなく、見えなかったものである。 - 林業現場では、地形や潅木の状況等により、伐倒作業者から見えない場所で作業を行う場合があり、伐倒に当たっては、伐倒による危険を及ぼす範囲まで直接確認し、作業を行うことが重要である。